杉浦日向子『百日紅』

百日紅 (上) (ちくま文庫)

百日紅 (上) (ちくま文庫)


例によって頼まれ事で取りとめもなくあれこれ調べている。
今は葛飾北斎
図書館からいくつか借りたもののピンと来るものがなく、人となりが見えてこない。
聞くと杉浦日向子百日紅』がいいという。
さっそく昨日三省堂に買いに行って帰りの電車に読む。
ちくま文庫から上下出ている。


貧乏長屋に住む葛飾北斎と娘お栄、居候の善次郎。
三人ともそれぞれに絵師。
女好きの善次郎はまだへっぽこだが、お栄は後の葛飾応為
父も認める腕前だが、父に似て性格はサバサバとした江戸っ子。
そんな三人の江戸の町のつれづれ。
人斬りもあれば鬼もろくろ首も出てくる。もちろん儚い色恋沙汰もある。
昨年アニメ映画化されたらしい。北斎松重豊。お栄は杏。
主題化が椎名林檎


代表作とされるだけあって確かにこれは面白かった。
漫画の描き方は江戸時代とは一見ミスマッチなライトなアバンギャルド
それが読むうちにしっくり来て、
これ以外に江戸の描き方はないのではないか、とすら思うようになる。


これまでにも何冊か杉浦日向子の漫画とエッセイを読んだことがあったが、
特に心に残ることはなかった。
両国の「江戸東京博物館」なんかに行くと
こぎれいな手ぬぐいなんかと一緒に文庫本が売られていてふと一冊欲しくなる。
しかし読んでみるとそれほどでもない。
あとはもういいかと思っていたところにひょっこりと傑作に出会う。
読むものがなくて駅で仕方無しに買った平岩弓枝御宿かわせみ』のシリーズが
思わぬ拾いものだったことを思い出した。


僕にとって長い間、杉浦日向子という方は短い間だったとはいえ
荒俣宏と結婚していたという印象というか事実が強烈にあって。
どんな夫婦だったのか想像がつかない。
江戸のことを話すのか、博物学のことを話すのか。
詮索するのは野暮か。
1980年22歳でデビューするが、1993年に健康上の理由で断筆。
たった13年しか漫画を描かなかったが、
この人がいなかったら21世紀の僕らの生活に
何か大事なものが欠けていただろう。