毎朝同じ時間に会う人

神保町出社最終日。
いつも通り二子玉川から大井町線に乗って上野毛で急行待ち。
大岡山のホームに並ぶときに先頭に並びたいから
座ってたのを等々力で立ってドアの脇へ。
早めにスタンバイする。
大岡山の駅に着いて少し小走りになっていつもの時間・いつもの位置を目指す。
首尾よく空いていた。


南北線浦和美園行を一本やり過ごして
三田線:西高島平行の確定に乗る。
ここもまたいつもの時間・いつもの位置へ。
年配の小柄な男性が木曜以外、毎朝同じ席に座っている。
白金高輪で下りるので代わりに僕がそこへ。
これを一年以上続けてきた。それも終わり。


秋になるとチラホラと空きができてだいたい座ることができるが、
4月から半年ぐらいは混んでて普通は座れない。
通勤時間が door to door で1時間以上。
座れるかどうかは死活問題だ。
このおじいさんの存在を知ってからは
途中からであっても席を確保できるようになった。
ありがたいことだ。
今日が最終日。改めて心の中で例を述べる。
これまでお世話になりましたと。


向こうが僕を知ってるかどうかはわからない。
たぶん気付いてはいるだろう。
来週から僕が目の前に立つことはない。
そのことに対して何かを思うことはあるだろうか。


どこから乗ってくるのか、どういう仕事なのか、何も知らない。
スーツは着ていないが、毎朝日経新聞を膝に乗せた鞄の上に持っている。
だけどそれを読んでいることはない。
ほとんどの時間を目を閉じて、眠っている。


白金高輪の駅に着いてその人は立ち上がり、僕は少し場所を空ける。
ドアから出てホームの中にまぎれて消えていくのが見えた。
僕は網棚から鞄を下ろして座り、読んでいた文庫を開いた。
次の三田で聞いていたアルバムが終わった。
僕は本を閉じ、iPhone を取り出して別の音楽を探した。
電車に揺られながら、残り10数分をぼんやりと過ごした。