東京の地面の底を巨大な魚たちが泳いでいる。
広大無辺の暗闇。汚れた水がしたたるのを避けて地中をゆく。
大きいのは1mを超える。3mや10mもある。
壁を抜けて、下水管を伝って地上まで近づく。
バシャバシャと跳ね回るがその姿は普通の人間には見えない。
音は聞こえない。
共食いをすることがある。
その死骸はさらに深くゆっくりと沈んで消えていく。
池や川、湖には近づかない。
まっとうな魚たちとはやりあおうとしない。
地下に棲む漁師たちがいる。
誰も彼らのことを知らない。忘れられた一族。
魚影の群れを追いかけて小舟で下水管を漕いでゆく。
見つけるとヤスで突く。
彼らが大人になったとき、2mを超えるものを1人でしとめないといけない。
時には女のヤス突きがいる。その辺の男よりも度胸がある。
地下水脈を深く潜って1分や2分を過ぎることもある。
暗闇に暮らすから彼らは視力を失っている。
目の周りを藍色の布で覆っている。
捕らえた魚は火を熾し、焼いて貪る。
暗闇の中でも目の利く者が火を預かる。
だから彼は一族の中で大きな権力を持つ。
どれだけ視力があろうと女がその地位につくことはない。
全世界の地下に、彼らのような漁師たちの一族がいる。
地上に住み、彼らと接触する者たちがいる。
外見はありふれた会社員や主婦だが、
人目につかない井戸やマンホールから地下に降りて干した「魚」を受け取る。
効き目が桁外れに強い漢方系の薬の原料となる。
それがいくらの金額となるか、
100倍にも1,000倍にもなっていることを彼らは知らない。
受け取っているのははした金。
あるものがそのからくりに気付いて地上人たちに強い怒りを抱く。
土臭さと魚の腐臭とがいり時混じった臭いを放つ彼らは
もう何百年と蔑まされてきた。
地上に出て、もう何年・何十年と騙しているやつらに復讐したい。
群れの多くのものは反対し、はぐれ者たちだけが
先祖代々の古びたヤスを手に地上に向かう。
いられなくなったのか、恐ろしいまでの向上心があったのか。
とっくの昔に抜け出して地上人に交じって暮らす男女がチラホラといて、
そのか細いネットワークが形成されていた。
彼らはもはや地下に戻るつもりはなかった。
この2者が出会う。