Noise Latitude

小説よりも映画向けの内容。


世界の果て、世界の終わり。
人気のない海辺。
文明は崩壊し、生き残った人たちがひっそりと暮らしている。


巨大な音が上空から聞こえる。
ゴウゴウという風の音ではない。
自然の音ではなく、かといって人工の音ではなく。
それが絶えずオーロラのようにうごめき、変化する。
明快な音階やリズムはない。二度と同じものはない。
いつでも聞こえるわけではなく、多くの時間は静寂に包まれている。
常に風が吹きつけ、風のやんだときにその音が聞こえる。
いつからそうなったのか。
そこでは世界の初めからそうだったのかもしれないし、
世界の終わりが始まってからかもしれない。
誰も知らない。誰もそのことを語ろうとしない。


少年は音が始まると外に出て
ポータブルなテープレコーダーに録ろうとする。
そのテープが部屋に山済みになっている。
音を組み合わせて音楽を作ろうとするがうまくいかない。
少女にそれを聞かせようとする。
少女は盲目で体が弱く、外に出ることができない。
少年も少女もこの世界の本当の広さを知らない。
理解することもできない。


最果ての村で植物は育たない。
これまでは週に一度のトラックが食べ物を運んできた。
しかしそれもこれが最後だという。
長老たち、大人たちは集まって村を捨てて北か南に向かうことを話し合う。
その日が来る。それぞれの家を焼き払う。
その灰を掬い取って、村人たちは歩き出す。
海辺を珍しく鳥が飛んでいる。
足の弱い者たちもいるから、時間がかかる。
体力のある若者たちは先に行く。
彼らの歩みとは関係なく、音が鳴り響く。降り注ぐ。
夜になって肩を寄せ合って眠り、朝が来てまた歩き出す。
少年は歌を歌う。
少女にその歌を教える。
少女はその歌を歌うことができない。


どこにもたどり着かない。
同じように打ち捨てられた村に出会うばかり。
それまで食料を運んできてくれたトラックが横転して焼かれている。
運転手の死体は見つからない。
そもそも他の村の人たちはどこに消えたのか。
食料も残り少なくなってきた。
雪が降りはじめ、気温も下がってきた。
太陽は雲の陰に隠れ、朧な光を放つばかり。
これ以上歩くことができなくなった者が出てくる。
長老たちは少女をそこに置いていく決断を下す。
少年は反対する。泣き叫ぶ。だけどどうすることもできない。
少年は引き離される。
そんなときにも音は聞こえる。無関係に、大きな音で。


歩き続けるうちに一人減り、二人減り、長老も自ら死を選ぶ。
少年が最後の一人になった。残りわずかの食料を託される。
少年の顔つきは以前よりも少し大人びている。
少年は一人歩き続けた。森の中を。海の側を。
辿り着いたのはかつて住んでいた村だった。
少年の家の焼け跡が砂まみれになってまだあった。
探すとテープの残骸が残っていた。拾い上げた。
静寂。音は聞こえては来なかった。
少年は空を見上げた。
音が聞こえてくるのを待った。