入院 12日目

『じみへん』を読み終える。
最終話、それまでと何の変わりもなく終わる。変な郷愁や裏話や凄味はなし。
さすがだ。達人だ。
その後『ローリングストーンズ全曲制覇』の続きを読む。
(時々少しずつよんでいる)
Lが終わって(「Live With Me」「Living Cup」など)Mに入った。


22時に消灯。
熱がさほど上がらなかったので手術以来久しぶりにアイスノンを使わず。
夢の中に身近な人たちが出始める。大学の先輩や職場の同じPJの方であるとか。


5時半起き。快晴。
なんだかすっきりしている。治ったかな、という感覚がある。
これまで意識のどこかに幕がかかっていたのがなくなったような。
歩いていても背筋がすっと伸びる。


ふと、月初だしRockin'on を買わなきゃな、と気付く。
しかし妻に頼むのも荷物になるしな、どうするかと思っていたら
そうだ、下のローソンで受け取ればいいんだと。HMVのサイトからオーダーする。
ついでに都築響一『圏外編集者』と『TOKYO STYLE』も。
スチャダラパーを読んでいても村上春樹を読んでいても都築響一に言及される。
無性に読みたくなった。


朝食。カマボコとわさび漬け。ジャガイモとニンジン、きぬさやの煮もの。
バナナ。ヨーグルト。
回診の時に昨日の血液検査の結果を聞くとよくなっていたと。
前回の半分の数値になっている。


向かいのベットの方が今日手術。
昨日から手術室に持っていく荷物をまとめたり、手術着に着替えたり、同意書をそろえたりと
直前の準備を進めていた。
奥さんは入院以来ずっと可能な限り付き添っている。
今日は朝から手術のため、7時から来ていた。
準備や看護婦とのやり取りのない間は夫婦の何気ない会話を交わしている。


斜め向かいのベッドの方は原因不明の高熱の検査のため入院しているようだ。
隣のベッドの方は僕が入院した当初は昼夜問わず看護婦に付き添ってもらって
1時間に1回トイレに行って食事もずっと流動食だったのが今週末退院となった。
その隣の方はよくわからないが、病状はよくなさそうだ。
状況が変わらず、体重だけが少しずつ減っていっている。
僕と同い年ぐらいに見える。


下のコンビニにいろはすを買いに行く。
ついでにはさみを買う。鼻毛を切りたくなってしょうがない。
9時を過ぎて、シーツと枕カバーの交換。部屋の中一斉に。


昔書いた小説の手直しについて考える。
いくつか改善ポイントがあって、そのうちのひとつに解決策が見つかる。
他いくつか突破口を見つけたい。退院したら書き直していこう。


下に下りていって広場のベンチへ。
一週間ぶりに外に出た。吹き抜ける風が気持ちいい。
気温は暑くもなく寒くもなく。空には適度に雲がかかっている。
近況を伝えようと義父に電話する。


午前中のうちに『幻のアフリカ』を100ページ読む。
11時、時間が空いて昨晩妻が持ってきてくれた二ノ宮知子『GREEN』の2冊を読む。
若い女の子が農業男子に一目ぼれして農業を志す話。


昼、蒸し鶏。いか大根。
午後、点滴の針が抜ける。ようやく身軽になる。
これまで担当してくれた多くの看護婦の方たちの中に一番若くて元気な子がいる。
さほど器用ではなく、経験も浅いが、その明るさがいっぱいに伝わってくる。
僕のところにも時々、そーっと顔を出して「元気?」と聞いてきたりする。
今日の午後もそれがあって、なんだかうれしく思う。
自分のその日担当している患者の方々を診て回っているだけでも大変なはずなのに。


この日、シャワーなし。
洗面所で水の要らないシャンプーで髪をもそもそと洗っていたら
反対端のベッドの八戸からきた奥さんが通りがかり、
あら、洗ってあげるという。いいのよ、いいのよ。
肩にカバーをかけてもらい、
シャンプーそのものは終わっていたので最後お湯で流してもらう。
「私ほんとは上手なんですけど、うちのはもう髪がなくなっちゃったから」
確かに手際よかった。手先が優しかった。
とてもありがたかった。


池内紀『二列目の人生』を読み始める。
読み物としてはあともう一つなんだけど、今は忘れ去られた名人・達人を紹介する。
貧しい生活の中に博物学を打ち立てた大上宇市。
油屋熊八とともに湯布院の亀の井別荘をつくった中谷巳次郎。
(その甥が『雪』で知られる中谷宇吉郎
大正天皇の侍医となり、後に姿勢の医者のバイブル3000ページを書いた西川義方。
などなど。


母に電話をしに行く。
そのためにまた広場へ。
午後はかなり気温が上がっていた。


向かいのベッド、朝の8時半に手術に出かけ、
夕方になっても家族が呼ばれない。
母と息子がずっと辛そうに言葉を交わしている。
ようやく呼ばれて行った。
僕のように術後は個室なのだろうか、その後戻ってこない。


夕方になるとさすがにこれまで通り、熱が出た。
下のコンビニに「おーいお茶」のペットボトルを買いに行った。
温かさがしみる。


夜はスタ丼。
メニューには「スタミナ焼き」とだけあった。
それしか書いてなくて、ニンニクやニラの入った肉野菜炒めのことなのか
ホルモン焼きのことなのかよくわからず。
豚肉、ニンニクの芽、玉ねぎ、にんじんを甘辛いタレで焼いたものだった。
なるほど、ニンニクの芽のことか。
これをご飯にそのままかけて食べた。


病み上がりで出社した妻は今晩立ち寄らず。
それはそれでとても体力のいることで、
先週はいつも食べるものもきちんと食べずに寝落ちしていたのだという。
だから風邪もひいてしまう。
地下鉄の帰り道、昨晩見たという「しゃべくり007」の話を LINE で聞く。
ゲストに吉田沙保里福原愛
吉田パイセンの乙女力、愛ちゃんの女子力、それぞれ半端なく高かったという。


コンビニが閉まる前に水を買いに行く。
『二列目の人生』の続きを読む。
尿道カテーテルが抜けてからこれまで毎回の尿量をカップで計測していたのだが、
不要となる。