「立春に PUNK を聴く」補講その1

2/4(土)神保町「温室」で開催の
「TERRAIN VAGUE vol.56 立春に PUNK を聴く」
選曲も終わって、今回もまた当日流さない曲をいくつか紹介します。まずは…


Sex Pistols - Anarchy In The UK
https://www.youtube.com/watch?v=q31WY0Aobro


パンクといえばピストルズなわけですが。
マネージャー・仕掛け人が稀代の山師マルコム・マクラーレン
その恋人がパンク・ファッションを生んだデザイナー、ヴィヴィアン・ウェストウッド
ヴォーカルは後に Public image LTD. で80年代ロックを方針づけた
醒めた知性派ジョン・ライドン(ジョニ―・ロットン)。
へたくそなベースはパンクの悲喜劇を一身に体現したシド・ヴィシャス(とナンシー)。
キャラクターが揃ってました。


歴史的重要性から言ったらこのバンドをかけるべきなのですが、
個人的にそれほど面白い曲ではなく。刺激を全く感じない。
それってピストルズの音楽性がつまらないというのではなく、
1977年以来このフォーミュラがさんざん使い尽されたからなんでしょうね。
これよりもかっこいいパンクの曲はいくらでもあります。


ピストルズをロック史上どう定義するか?
僕はロシア人の思想家ミハイル・バフチンのいう「カーニヴァルの戴冠」を思い出します。
中世のヨーロッパ。一年に一度の祭りの日だけは全てが無礼講になって、階級が逆転する。
おどけた道化師が一日だけの王様となってまがい物の冠をかぶり、笑われながら練り歩く。
(この一日だけの王様というモチーフはデヴィッド・ボウイHeroes」や
 XTC「King for a Day」などで見られますね)
1970年台のロンドンにおいてなのか、ロックミュージック界なのか。
そういう存在だったと思います。
そもそもパンク自体がどこか道化師的というか。


Sid Vicious - My Way
https://www.youtube.com/watch?v=HD0eb0tDjIk


フランク・シナトラの名唱で知られる「My Way」を
甘ったれ問題児シド・ヴィシャスがカヴァー。
このドシャメシャなぶっこわれっぷりもまたパンクの何たるかを表してますね。


Public Image Ltd. - Four Enclosed Walls
https://www.youtube.com/watch?v=PrdL42hbpsQ


音楽的に面白いのはピストルズよりも断然、PiLの方。
2枚目の『Metal Box』で呪詛のような暗黒ロックを確立し、
4枚目の『Flowers of Romance』はベースレス、
ドラムとギターノイズだけのロック界至上の極北。
この1曲目は全てを葬り去る鎮魂歌に聞こえる。

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Sex Pistols と並び立つロンドンパンクの雄といえば、The Clash


The Clash - Janie Jones (Audio)
https://www.youtube.com/watch?v=GsVjWd1mh4w


1枚目のアルバムの1曲目。
代表曲にしてパンクのアンセム
「White Riot」や「London's Burning」も収録されていますが、
この2分チョイの短い曲の、扉を開け、風を注ぎ、
この世界にパンクの何たるかを伝えるかのような清々しさには敵わないかな。
かなり男臭く、無防備でナイーヴですが。
予備知識なしにこの曲を聴いたとき、
パンクの持つイメージ「反抗」「暴力」を思い浮かべるのはかなり難しいと思います。
しいて言うなら「チンピラ」でしょうか。


この粗削りなポップミュージック、
根底にあるのは60年代からのガレージロックなのだということがよくわかります。
アルバムのラストも(彼らにしては)ロマンチックな「Garageland」という曲。


Sex Pistols は『Never Mind the Bollocks』という
たった1枚のアルバムを残して空中分解。
それゆえに「パンクの音ってこんな感じ」と誰もが思い描く
永遠不変のフォーミュラを冷凍保存する。
一方で The Clash はアルバムを発表するごとに
ロカビリーやカリプソなど雑食的にいろんな音楽を吸収していきました。
3枚目の『London Calling』が80年代ロックを代表する名盤とされ、
5枚目の『Combat Rock』ともなるともはや1枚目の面影はなし。
この頃は1枚目の「White Riot」や「London's Burning」は
ステージで封印していたのだとか。
その5枚目から、後期の代表曲。


The Clash - Rock the Casbah
https://www.youtube.com/watch?v=bJ9r8LMU9bQ


The Clash のずっと変わらないぶっきらぼうでチンピラな声、存在感、
そこに体現される精神性はヴォーカルのジョー・ストラマーが担い、
音楽性の進化はギターのミック・ジョーンズによるところが大きい。
5枚目の発表後、音楽性の相違によりミック・ジョーンズが脱退。
6枚目の『Cut the Clap』は聴くべきものがなく、
多くのファンからなかったことにされています。
そのミック・ジョーンズが結成したのが Big Audio Dynamite (B.A.D.)で
ヒップホップやファンクに接近した、早すぎたミクスチャーロック。
U2が1994年に『Zooropa』のツアーで来日したときの前座だったのですが、
当時19歳の岡村少年は「ああ、パンクってもう終わったんだな」と痛感したものでした。


Big Audio Dynamite - C'mon Every Beatbox
https://www.youtube.com/watch?v=Dh4b4c-RzE8