Something About This Building

30階
子供たちの遊んでいる声、賑やかな音、
ただしその音声がスピーカーから聞こえるのみ、朝も夜も、
それ以外何もない空間


29階
死(それ以上先には進めない)


28階
生(そこから後戻りできない)


27階
色とりどりのツヤツヤとした風船が詰め込まれているのだが、
いくつかの基本的な色が欠けている


26階
嘘とか偽りとか裏切りとか、誘惑とかためらいとか


25階
大人でも抱きかかえられないほどの巨大な鉛筆が一本だけ床に置かれている、色は黒、2B
(月に一度芯を削るために専門の業者が呼ばれる)


24階
その部屋の過去が見える


23階
目を閉じて部屋の中心に立つとこの世界の広がりを感じることができる、
誤差1mmの範囲で正確な位置に立つ必要がある


22階
クラインの壷構造となり、中に入ると外に出ている


21階
下界を見下ろす専用だが特別な設備は設けていない
(今後の予算次第、検討委員会の会合が月に一度のペースで続けられている)


20階
夜間一定の間隔で照明をON/OFFすることでモールス信号を送る、
ただし特定の誰に向けられたものでもない


19階
部屋いっぱいに広がった水槽の中にサメが横たわっている、身動き不可、
死骸となったときに群がる微生物たち


18階
アンティークなテーブルと椅子、湯気の立つティーポット、焼きたてのクッキー、
完璧なティールーム、しかし入口はない


17階
しんしんと雪が降り積もっている、時折吹雪が荒れ狂う
遠くに小さな小屋が建っていてランプがついているのが感じられる


16階
1+1≠2となる別の次元の世界の数学で空間設計されている


15階
国際線のジェット旅客機の客室となっていて
機長も乗客もフライトアテンダントもハイジャックを目論む犯罪者もいる


14階
積み重なった靴下の箱、手袋の箱、帽子の箱、靴の箱


13階
欠番、全てをコンピュータと分厚い台帳で管理する部屋がどこかにあるという噂


12階
五段ベッドが隙間なく並んでいる、その永久利用権を手に入れるには
平均的な生涯賃金の少なくとも3人分は必要とされる


11階
子供たちのために無限に甘いお菓子が生成され続ける、
ただしパッケージを見てもどこの国の何のお菓子なのかわからない


10階
音符や休符が無造作に床に転がっていて、利用者は各自テーマに応じて並べ替えないといけない


9階
図書室となることが決まっていて一冊の本だけで棚を埋め尽くす予定だが、
その世界でただ一冊だけ必要な本については継続審議中、
特定の宗教や政治信条に組することなく etc.


8階
その部屋に入ることのできる人、ないしはグループの条件が日替わりで提示される
例「五つ子」「哀しみの恋人たち」「カラスの鳴きまねがうまい」


7階
24階と直接つながっている


6階
このビルディングでの体験を擬似的に再現する映像と音声を体験できる(この入れ子構造に注意)


5階
水道管が壊れているためドアを開けると部屋いっぱいに溜まった水が押し寄せる、
真新しい貼り紙「決してドアを開けないこと」


4階
常設の室内楽団が24時間365日演奏を続ける、リクエストは基本的に受け付けない


3階
階段があるのみ


2階
居住者とゲストそれぞれの排泄物を溜めて循環させるガラス張りのタンク2種が空間の大半を占める、
派生するパイプの類、強力に作用する空調設備、明るすぎる照明、軽快な音楽


1階
エントランス、レッド・カーペット、慎ましいシャンデリア、
奥の壁にこのビルディングの見取り図、1/1000サイズの模型
(地下室は「存在しない」ことになっている)