毎朝すれ違う人たち

毎朝同じ地下鉄の同じ車両の同じ席に座って通勤する。
毎朝だいたい同じ時間に家を出る。06:52±3分。
となるとほぼ毎朝すれ違う人たちがいる。


一人は家を出て3分ほど歩いて、大通りの交差点ですれ違う。
横断歩道か、その先通りを渡ってすぐのところか。
晴れの日も雨の日も。夏の日も雪の日も。
大柄な男性。年齢は僕と同じぐらいか。スーツを着ている。
ぼんやりした日だと思わず会釈しそうになる。
時々、見かけない日が2・3日続くとどうしたのかな、と心配になる。
向こうもきっとそうなんじゃないか。
これが10代の男女ならきっと恋が芽生える。
しかし40過ぎたおっさんなのでそれはない。


あるとき、いつもより少し早く出たらその方が
交差点を過ぎてガソリンスタンドの角を曲がった通り沿いのアパートから出てくるのが見えた。
そうか、ここに住んでいるのか。6:55 になると家を出るのだろう。
彼は駅とは反対の方向に向かう。この近くで働いているのだろうか?
近くにコンビニとかいろいろサービス業はあるけど朝7時にスーツの必要はない。
あるとしたらダイハツとかトヨタの営業マンか。しかしこの時間に毎朝出社しなくてもよさそう。
何の職業だろう?
妻にこの話をすると近くの小学校の先生なんじゃないかと。なるほど。
だったら授業の準備とかで朝早く出ないといけない。
子供たちに授業を教えて、給食を食べて、時には一緒に校庭で遊んで。
先生という仕事は大変だ、ブラックだと言われている昨今、
独身ならば学校の近くにアパートを借りて住むのが現実的だ。
休みの日は何してんだろうなあ、などと妄想が広がる。


もう一組、今度は駅の近くで。
07:07±1分(途中急いだりゆっくりしたりで自然と調整していてだいたい同じ時間になる)。
最初は三人組だったが、後に二人組となった。
地上出口を出た先ですれ違うので、地下鉄に乗ってこの終点の駅まで来ているのだろう。
不思議なことに一人はこの春高校を出たかのような若者で、もう一人は50過ぎぐらいのおっさん。
これがどちらも似たような格好をしている。
ジーンズメイトやその他大型格安店で売ってそうなネルシャツにジーパン。
これが案外仲よさそうに話しながら歩いている。おっさんの方がよくしゃべる。
友達なのか? なんなのだろう?
以外に、若者の方が童顔で実は30近くで、おっさんに見えてふけ顔でやはり30近くなのか?
そもそも、彼らは夜勤が終わって帰ってきたところなのか、それともこれから仕事なのか。
ずっと気になっていた。


それが先週の夜、遅くなって帰ってきたら
例のガソリンスタンドの角を曲がった通りの駐車場に白いライトバンが停まっていて、
そこにあの二人が。若者が運転席でおっさんが助手席で。
朝と変わらず、なにやら楽しげに話している。
揃いの白いつなぎを着ていた。
なんらかの専門業者の現場スタッフなんだろうけど、それが何なのかはわからず。
今思うと車をちゃんと見たら脇に書いてあったかもしれない。
そうか、会社の先輩後輩だったんだな。
もう一人の最近見かけない若いのは早々に辞めちゃったんだろうな。
しかし、朝7時に見かけて夜の20時か21時まで。
これもまた相当ハードそうな仕事だ。拘束時間が長い。その日たまたまかもしれないけど。
しかもタイムカード的には現場作業が終わった時間で業務終了で
その後見かけたような車内でのアフターミーティングはカウントされないかもしれない。
彼らの朝の格好は裕福そうには見えない。
資格が不要で、ただただ時間を差し出すだけの仕事なんじゃないか。


などなどと知らない人たちのことをあれこれ考えている。
特にうらやましい、入れ替わってみたいとは思わない、普通の人たち。
向こうは向こうで毎朝すれ違うサラリーマンのことをなんだろう? と思っているかもしれない。
イヤホンで音楽を聴きながら、表情もなく、というか無愛想に、早足で通り過ぎていく40代の男性などと。
そもそも彼らの目に僕は映っているのだろうか?