吉祥寺のパン屋

叔父の家に呼ばれる。
吉祥寺までバスで行く。3連休の初日、真夏の暑さでバスも
石神井公園、上石神井と駅に着くたびにたくさん下りて、たくさん乗ってきた。
吉祥寺に着くとハモニカ横丁の中華料理屋に入った。


お土産を買いに行こう、ということになる。
僕は田酒の、青森でしか手に入らない山廃をもってきた。
妻はパンを買うという。
東急の裏に友人から聞いたいい店があると。


ぶらぶら歩く。
男性向けのおしゃれな雑貨屋の前でワゴンセールの帽子が並んでいて、
あ、これいいんじゃないかと思ったメッシュの中折れ帽が安かった。
陽射しが強いということもあって買ってみることにした。
さっそくかぶっていく。
帽子を買うなんて小学校時代の野球帽以来だ。
なぜか阪急ブレーブスだった。


パン屋があった。
奥まったなかなかわかりにくい場所にあって、うまく説明できない。
一階がインテリアの店で、地下がパン屋となっている。
建物はしっかりとしたつくりで、中に入るとひんやりしていた。
程よく客がいて、それ以上に白い帽子に白いエプロンの店員がいた。
客が自分でトレイに取るのではなく、全て後ろに控えた店員が取ってくれる。
ちょっとセレブな気持ちになる。
その話声が絶えずしてるんだけど店全体としては静かで、
なかなかうまい接客だな、と思う。
疲れた客、ないしは僕のように妻の買い物についてきた男性客のために木製のベンチがある。
木を一本そのまま使った贅沢なもの。だけどその設えは慎ましやかだ。

パンはもちろんオーガニックな素材を使っていて、ふんわり、もっちりしている。
変わり種もオリーヴやピスタチオ、クルミなど。
妻はこういうパン屋が家の近くに欲しいという。
二子玉川・瀬田に住んでいた時は何がよかったかといえば
気の利いたパン屋がたくさんあって、
それぞれの持ち味を活かしたおいしいパンがいつでも買えたこと。
今、光が丘にそれはない。
駅ビルにパン屋は入っているが、チェーン店のありふれたものだ。
こだわりのオーナーのこだわりの店がないと、その町は物足りない。


帽子をかぶり、叔父の家と自分の家とで分けたパン屋の袋を抱えて、
吉祥寺の駅へと向かった。