渋さ知らズ『Lost Direction』など

昨日に続いて、渋さ知らズ
最近まとめて聞き直したので、いくつかのアルバムについて書いてみようと思う。


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『Lost Direction』(2005)


ヨーロッパのレーベルから発売され、日本では限定盤としておなじみ地底レコードから。
2002年4月に江古田バディでライブ録音されている。


不破大輔自らベース、片山弘明、川口義之、小森慶子、北陽一郎、高岡大祐、
室舘あや、内橋和久、渋谷毅、佐々木彩子、植村昌弘、関根麻里
総勢12名という「少数精鋭」のメンバーがよかったのか、
よけいな贅肉のない、しなやかで剛速球のような演奏。
フリージャズに突入しても輪郭がくっきりしている。
何より楽器がクリアに聞こえる。


渋さ知らズは30人ぐらいステージに立って、個々のメンバーの演奏レベルにばらつきがある。
何が生まれるかわからないそのごった煮感が面白いんだけど、どっか縁の方はぼやけてしまう。
コンサートならそれでいいとして、アルバムとして聞くときにどう捉えるか。


『渋旗』(2001)と並んで、彼らの代表作だと思う。
というか、渋さ知らズはやはりここから3年ぐらいがピークだった。
渋谷毅が参加したのもこの頃まで?


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『渋星』(2004)


サン・ラ・アーケストラのメンバーを3名ゲストで迎えて、
「Space Is the Place」などサン・ラの曲も演奏している。


まさに星というか宇宙。
ほぼ全編、轟音カオスのごり押し。
メロディーの押し引きもあるはずなんだけど、印象に残らない。
ぼんやりとしたガスから生まれてカッカと燃え上がり、
それが永遠のような長さで続いて、最後は白色矮星へ。
そんな星の一生を音で表してるとも言える。


『渋樹』(2017)もまた超ド級のカオスの渦なのに聞きやすいのは
取り上げたクラシックの楽曲のメロディーの強さが拮抗しているからだと思う。


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『渋夜旅』(2010)


帯には「渋さ史上、過去最長の録音時間を費やし」とある。
うーん、ファンが望むのは逆で、「渋さ史上、過去最短の録音時間で完成!」ではないか。
スタジオに入って2時間で、1時間のアルバムを録音したとかそういうの。
渋さはやっぱ勢いですよ。
スタジオで曲を煮詰めるとか演奏をいじくるっていうのは似合わない。


なのでこのアルバムにはあんまりなじめず。
「HYOEI」とか面白い曲はいくつかあったけど。
ライブに通ってると新曲もいろんな編成、アレンジで聞けて
CDに収録されたのもその1バージョンという形で受け止められるけど、
ライブに行かなくなってCDだけになると他のバージョンを知らず、
そのバージョンだけを何回も聞くことになってこれが案外辛い。
あのときのライヴで聞いたのを重ねながら、頭の中で広げてゆくというのができない。


どちらかというと特典DVDのヨーロッパ演奏の模様の方が面白い。
行く先々で演奏しながら街を練り歩く。
白塗りのダンサーも含め、かなりの大所帯になってバスや鉄道で移動。
途中で合流するメンバーや別れるメンバーもいる。
移動と演奏以外の時間はたいがい飲んでいる。
勝井祐二の姿もあったなあ。


この特典DVDの最後に「本多工務店のテーマ」
木更津のテント公演「天幕」のときのもの。
南波トモコが登場して冒頭で詩の朗読。
「龍のかたちの天使が下りてくる」に始まって最後に「あなたの魂を!」と繰り返す。これがグッとくる。
僕も生では一度しか見たことがない。
公式に録音したものはひとつもなく、映像ではこれだけではないか。
もちろん、YouTube にはあるけど。これなど。
https://www.youtube.com/watch?v=AYt9Q-ZR9pM