渋さ知らズ『渋龍』など

今日も渋さ知らズ
というかキリがないのでここまでにしようかな。


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『渋栗』(2010)


思わず忘れるところでした。
渋さ知らズ栗コーダーカルテット
メンバーの川口義之がどちらにも加わっていることからのコラボ企画。
渋さ知らズの曲を栗コーダーカルテットがカバーし、
栗コーダーカルテットの曲を渋さ知らズがカバーする。
なので渋さ知らズが「ピタゴラスイッチ」のテーマ曲をやったりする一方で
栗コーダーカルテットは「本多工務店のテーマ」「ひこーき」「ナーダム」「犬姫」などの代表曲を
リコーダーを主体のスカスカ・脱力の編成で。
こうしてみると渋さ知らズの曲(主にバンマス・ダンドリストの不破大輔が作曲)って
おおまかなコード進行が決まっているだけのフリージャズ、というのではなくて
しっかりつくられた印象的なメロディが多いんですよね。


ふと気付くと渋さ知らズの方はいろんなジャンルのいろんな曲をカバーしているけど、
渋さ知らズの曲をカバーされることって見たことがない。
メンバーが自分のアルバムで取り上げるってことはあっても。
もしかして地方の高校や大学の吹奏楽団が採譜された譜面を元に演奏というのがあったりするのか。
甲子園の応援で「本多工務店のテーマ」や「ナーダム」が流れてもいいと思うですよね。


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『渋龍』(1999)


これも代表作の一枚ですね。
1999年から2002年にかけての『渋龍』『渋旗』『Lost Direction』この3枚が渋さ知らズの頂点だと思う。


『Dettaramen』(1993)などの初期の作品の試行錯誤を経て、
『渋祭』(1997)が過渡期となってそのフォーミュラが形作られる。
そしてその次の『渋龍』でいきなりそのフォーミュラは飽和し、食い破られ、
渋さ知らズ渋さ知らズ以外の何者でもなくなる。
単なる「大人数の編成によるアングラなフリージャズ」ではなく、
得体の知れないものが蠢いた、本来名付けようのないものになっていく。
それを「龍」という一文字に託したというただそれだけでもこのアルバムのコンセプトは際立っている。
そう、渋さ知らズは嵐を呼ぶ黒雲の間からその牙や前脚を覗かせて、決してその全貌を見せない龍なのだ。


実際00年代前半のライブ会場ではよく、銀色の大きな龍の形の風船が僕らの頭上をふわふわと浮かんでいた。
(ステージに立たないメンバーがその紐を引っ張っていた)


最初に置かれた代表曲「バルタザール」からして威風堂々、前作『渋祭』から頭3つ4つ飛びぬけたのが分かる。
ジャズのイディオムを援用し、なんか退屈だなと思わせたところで狂乱の渦に雪崩込んでいく「天秤」や
渋さ史上最速のロックナンバー「スターフィールド」
そしてその名の通り荒々しく猛り狂う「バイオレンス・ヒバナ
その後のアルバムには収録されず、ここでしか聞けない後半のこの3曲の流れが怒涛。
最後にもうひとつの代表曲「DADADA」がさらに大きなスケールで夜空に広がっていく。
『渋星』(2004)の前に既にして渋さ知らズは宇宙を描ききっていたんですよね。


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『巴里渋舞曲』(2008)


まさかのメジャー avex 移籍後の『渋全』(2006)と『渋響』(2007)を経ての
恒例となったヨーロッパでのステージを録音したライブアルバム。


初めて渋さ知らズを聞く人には、個人的にはこれをお勧めします。
バランスがいいんですよね。
「Fight on the Corner」や「We Are A Fisherman Band」といった『渋響』からのナンバーを中核に配置しつつ、
オープニングが「バルタザール」「股旅」
後半が「LION」「ひこうき」「ナーダム」「本多工務店のテーマ」「仙頭」「ステキチ」とベスト盤のような選曲。
かつてのようなどこに向かうか分からないいかがわしい混沌は薄れたものの、ド迫力の演奏なのは変わらず。
2枚組で MC も入って実際のライブに近い感覚で聞けます。


MC / ボーカルの渡部真一が中盤登場、静かに抑えた演奏が続いた後に
ウィーアー! 渋さ知らズオーケストラ!!」と叫ぶと皆加わってグワーッと盛り上がっていく。
単純にかっこいい。ライブのそういう瞬間を捉えているというだけでも聞く価値あり。
なんのかんのいっても、「本多工務店のテーマ」はこのアルバムのが一番いいんじゃないかな。


この後『渋夜旅』(2010)、『渋彩歌謡大全』(2012)を経て
またインディーズの古巣「地底レコード」に戻って『渋樹』(2017)へ。