Pink Floyd 『Early Years』1965-1970

先週に引き続き、週末は Pink Floyd のボックスセット『Early Years』を遡って聞いて行く。
3連休で時間があったので、昨日土曜のうちに全ての DVD / CD までたどり着いた。


こうやって見てみて思うのは、当たり前のことだけど
1967年までのシド・バレットがフロントのバンドと
1968年からのロジャー・ウォーターズが中心のバンドは全くの別物なのだなと。
なので1967年の『夜明けの口笛吹き』(The Piper at the Gate of Dawn)が彼らのデビュー作とされるけど、
1968年の『神秘』(A Sauceful of Secrets)もまた第二のデビュー作なのだなと。


1968年版の DVD にコンサートやテレビの収録などいろんな場面が抜粋されてるんだけど、
必ずと言っていいほど『Let There Be More Light』を演奏している。
『神秘』の1曲目。僕達は生まれ変わったんだ、という意識があったのだと思う。
このアルバムの代表曲「A Sauceful of Secrets」
「Set the Controls for the Heart of the Sun」もその後ずっと演奏され続けた。
その時々のアレンジでガラッと変わりながら。どんどん精神性、神秘性を高めていく。
このボックスセットでその変遷を確認することができる。


ロジャー・ウォーターズの肉体もどんどんたくましくなっていく。
夏だと上半身裸。それがとても引き締まっている。レスリングの選手のよう。
Pink Floyd は決して軟弱なバンドではなかった。
あの頃のプログレバンドで喧嘩をしたらロジャー・ウォーターズが一番強いんじゃないか。


そう思うと、一般的に名盤とされる『夜明けの口笛吹き』もさることながら
『神秘』も同じぐらい重要な作品だと思う。
最後の曲が、シド・バレットが唯一このアルバムで演奏に参加している「Jagband Blues」という辺りも
後年、シドに捧げたアルバム『炎』(Wish You Were Here)につながるのだろう。
普通再デビューというのならシドが参加した曲は使わず、まっさらな気持ちで臨むと思うんですよね。
そうしなかったという弱さ、優しさ、煮え切らなさこそが
Pink FloydPink Floyd 足らしめてるのではないか。


1967年の映像はやはり、シド・バレットが演奏している姿を見ることができるのが大きい。
ステージでは必ずサイケデリックなライトショウを伴っていた時代。
最先端のファッションに身を包んだ男女が踊っている。
『夜明けの口笛吹き』の1曲目「Astrnomy Domine」(天の支配)は後年も演奏された。
シド・バレット時代のがあくまでサイケデリックな演出としての占星術であるなら、
ロジャー・ウォーターズ時代となるとそれは思想としての天文学に深まっていくような。
書割の宇宙の絵と宇宙空間の底知れぬ孤独、ぐらいに変わってしまう。
じゃあシド・バレット時代がつまらない、浅い、かというとそんなことはない。
アートスクール出身ゆえの優れた映像センスを発揮している。
時代と寄り添っていたのはこの頃までだった。


1968年の DVD は「Interstella Overdrive」に
フランク・ザッパが参加している。
ザッパも若い。ギターのネックに煙草を挟んでチューニング。
英米実験音楽の雄の共演。これは貴重。


1969年はライヴで披露された組曲『The Man』『The Journey』が CD になったのが大きい。
The Doors で言えば『The Celebration of the Lizard』が収録されたようなもの。


1970年はアントニオーニ監督『砂丘』の未発表曲集の CD2 の最後に
「原子心母」(Atom Heart Mother)の初期バージョン。
CD1 の BBCラジオセッションにも2曲。オーケストラ共演のコンサートとか。
King Crimson 「21st Century Schizoid Man」を集めた例のアルバムのようだ。
初めて聞いた高校時代、車のエンジンの音とかいろんなサウンドエフェクトが入っていて
人生最初に聞いた「変な曲」だったけど、
バンドだけの演奏になるとなんともメランコリックでサイケデリックなブルース。


Pink Floyd は下手だと書いているのを時々見かける。
Yes とか King Crimson に比較したら確かにそうだろう。
だけど何をもって上手いとか下手と言ってるのか。
今回のボックスセットを通して聞くと彼らの演奏能力の高さに驚かされる。
しかしそれはあくまで彼らの詩的、暴力的感受性の発露としての楽曲を演奏するためのもの。
何度も繰り返し演奏される
「Set the Controls for the Heart of the Sun」
「Careful That Axe, Eugene」
Atom Heart Mother」といった楽曲が見せる様々な表情の豊かさ。
Pink Floyd は『狂気』『炎』『The Wall』だけにあらず。
この初期の Pink Floyd はもっともっと評価されるべき。