やがて、と、いつか

帰り道、なんとはなしにほんの少し遠回りする。
歩道橋に上る。
ふと立ち止まり、空を眺める。
まだ青みの残る夜空に白い雲が流れていく。
遠く向こうまで続いている。


ああ、空は丸いんだなあということを思いだす。
ああ、僕は地球という星に、球体に生きているんだなあと。
とてつもなく広い、想像もつかないぐらいに広い
宇宙の、銀河系の片隅に生きている。
その多くは何もない冷徹な虚無の空間だとしても
たまには地球のような星もあるだろう。


そこでは橋が架けられ、花火が打ちあがり、
夜空に思いを馳せる人もいるだろう。
口笛を吹く子供がいて、
悲しみを乗り越える恋人たちもいるだろう。
百万光年か一億光年離れて。


この星が回転する音を聞いて、
この星が回転するときの風を感じるという人もいるだろう。


その人はすぐ目の前にいるかもしれない。
なのにそのことに気付かないまま
背中を丸め、目を伏せて、歩道橋を下りて歩いて行く。
トラックが通り過ぎて行く。
そのクラクションが鳴る。
遠くで何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。
そちらを見ることもなく、
夜空を見上げたこともやがて忘れてしまう。