『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』

昨日、渋谷のイメージフォーラムで先週末公開された
北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』を見た。
劇場に客は10人ぐらいか。年配の男性が多かったので興味は北朝鮮の方なのだろう。


2015年8月15日。
北朝鮮解放70周年(日本の終戦記念日イコール、という)を祝うために
招聘されたのがなんと旧ユーゴスラビア出身の Laibach 。
当時これは日本でもニュースになった。
西欧のロックバンドで初めて北朝鮮で演奏することになったんですよね。
非常にコンセプチュアルなグループ。母体はスロヴェニアの前衛芸術集団の音楽部門。
ナチスを彷彿とさせる衣装と全体主義国家を匂わせる言動を貫いて物議を醸し続けてきた。
今もいくつかの国では扇動的ということで犯罪者扱いなのだとか。
そういうはみ出し者ゆえの結びつきなのか。
イベントの性質上、最終的な決定権は金正恩総書記にあるだろうから、
もしかしたら個人的にとても興味があったので呼んだのかもしれない。
あるいはストーンズU2 は良識ある大人として断ったのかもしれない。


その一部始終を記録したドキュメンタリー映画
空港に着いて早々データの入ったディスクを没収され、
コンサートホールの技術者たちも機材も1950年代のままで話がかみ合わず、
(しかもコンセントが一か所のみで間違えて抜いてしまうと全部が消えてしまう)
付いて回った検閲官によりバックに映し出そうとした映像は公演2日前に差し替えを求められ、
当時の最新のヒット曲「行こう白頭山へ」をカバーしようとしたらイメージが違うとダメ出し。
そんなこんなの困難ばかりでようやく初日を迎える。
一方で共演することになった音楽学校の少女たちが一点の汚れもないような天真爛漫さで。
さすがの Laibach も北朝鮮に呑まれっぱなし。


Laibach は今から25年ぐらい前に出会って以来、ずっと気になっていた。
『Let It Be』はビートルズをカバーしたアルバムの中では最高峰だろう。
余り情報が日本に入ってこなくて、日本盤が出ても解説にたいしたことは載っていない。
この映画を見れば少しは何かわかるかもと思ったのだが、
21世紀に入ってヴォーカルのミラン以外メンバーが総入れ替えに近く、
彼らの動く姿は見ることができたものの、
結局は一番過激だった80年代のことはやはりベールに包まれたまま。


あ、そうだったのか、と初めて知ったのは
リーダー的存在はヴォーカルのミランではなく、イヴァンなのだということ。
(『Let It Be』のジャケットでは左下のリンゴの位置)
しかそのイヴァンも楽器を演奏するではなく、スーパーバイザー的な存在。


映画は初日にこぎつけて一曲演奏したところであっけなく終わってしまう。
それまでのてんやわんやが主題で、
100分の長さもあるからあえて潔く終わったのかもしれないけど
目玉の演目として『Sound of Music』の曲屋『アリラン』を演奏するとされていたのが
全然登場しないのは肩透かし。前者は権利上の問題なのだろうか。
実際のライヴの映像が少ないのも映画に出てはまずい要人が随所に映し出されていたからか。
編集前なのか後なのか、撮影された素材に対して相当検閲が入ったんじゃないかな。
ところどころ映し出される北朝鮮の街角の風景は民族衣装を着た男女が楽しそうに踊っていたり、
この世の楽園に春が来たかのようだった。
おしゃれな服を着てる人やスマホを持ってる人も多かった。


そんなわけでかなり寸止め。
北朝鮮か Laibach に興味がないとなかなか辛いかな。
音楽映画としての感動は特にない。
監督の一人が北朝鮮とコラボするのが得意なノルウェー人で、彼の仕切りでコンサートの準備や調整が進んでいく。
Laibach よりも彼が主役のよう。そこの辺りも中途半端になってしまったか。
ただ、彼が以前撮影した北朝鮮音楽学校の若い生徒たちが
A-ha「Take On Me」をアコーディオンで弾いたのは面白かった。
https://www.youtube.com/watch?v=rBgMeunuviE


映画が終わって炎天下の中、表参道方面へ。
授業が終わったタイミングなのか、青山学院大学の大勢の学生たちとすれ違った。