記憶の底に残る唄

小さい頃に聞いた唄を、意味が分からないながらも時折思い出す。
そんな唄が誰しもひとつやふたつはあるんじゃないかと思う。


最近思い出した唄がある。
母の故郷である青森県北津軽郡今別町で小さい頃に聞いた。


「サーイギサイギ ドッコイサイギ
 オヤマサハチマン コンゴウドーシャ
 イーキニナノハイ ナノキンミョウホウライ」


記憶違いのフレーズがあちこちあるんじゃないか。
意味が分からないから、補完しようがない。


今別町は荒馬祭りで知られる。
だけど、荒馬祭りではないはず。
あれはいつの時期なのか。
年に一度、小学生低学年の、年頃の子どもたちが
付き添われて、連なって、山の中を歩く。
恐らく神社に向かったのだろうか。


そのとき実家を訪れていた僕も連れられて山に上ることになった。
お公家さんを真似るというのか、顔を白く塗って眉の間に黒く書いてという。
用意されていた衣装も着たか。
それが嫌で嫌でたまらなくて大泣きした。
それでも結局なだめすかされて祖母か誰かに手を引かれて泣きながら山を上った。
その時に聞いた唄のように思う。


ゆっくりゆっくりと唄のリズムに合わせて山道を上っていく。
「サーイギサイギ」と何度も繰り返される。
今も年に一度続いているのだろうか。
そんなことはないか。
僕らから何年か先が最後だったかもしれない。


あの日の記憶は夢や幻なんじゃないかと思うこともあるが、
はっきりと記憶に残っている唄があって、
あれはやはりそうじゃないんだと。
異世界に連れて行かれることを恐れて僕は泣いたのか。