日曜のこと。夜、熊本からみかんが届くことになっていた。
20時半頃か、インターホンが鳴った。
白黒のモニターの向こう、少し外れた場所に立っている。
ああ、郵便局のいつもの人か。
初老の、言葉数少なくて、どちらかというと反応が鈍い。
ボタンを押して「今から行きます」と言うが、聞こえてるようには見えない。
玄関を開けて門のところへ。
バルコニーの真下にあって開けると駐車スペースになっているので暗い。
そこに人が立っている。
その時たまたま、なぜかセンサーライトがつかなかった。
門扉の隙間、真っ暗な中に人の輪郭だけが見える。
「お待たせしてすみません」か何か言うが、反応がない。
目の前には闇に浮かび上がる人影だけ。しかも微動だにしない。
こちらも立ち尽くす。
ゾワゾワと怖くなってきて、身動きできない。
もしかして幽霊を相手にしているのか。
時間にしたら1秒か2秒ぐらいのことでしかなかったかもしれない。
「お届け物です」と声がして、その方が少し動くとセンサーライトがついた。
配送伝票にサインをして、門扉の上から受け取った。手が震えた。
ほんとゾッとした。
幽霊ではなかったが、幽霊を見るというのはこういう感じなのだろう。
得体のしれないものがそこにいると感じるのが一番怖い。
今のようにあちこち街灯のない江戸時代、月の出ていない夜に
例えば峠で人とすれ違うというのはかなり怖いことだったんじゃないか。
声を掛け合ったりもするのだろうが、相手が無言で静かに歩いていたら。
いや、追剥が怖いから夜は山道を行かないか。
でもまあ長屋であれ、あぜ道であれ明かりの消えたところ、なかったところでの
得体のしれないものははるかに多かっただろうな。
想像力も働いて、それは妖怪にもなったか。
町に暗闇が消えて、それとともに想像力がなくなった、
という議論をどこかで読んだ。そうだよな。
不明なものはなくなるが、その分世の中つまらなくもなっていく。
もっと明かりを減らしてもいいんじゃないかと思いつつも変質者には会いたくない。
なかなか難しい。