家をつくる

家を出て大通りを渡り、公園へと向かう道に入る。
アパートをつくっている工事現場がある。
夏から始めて半年かかってようやく完成が見えてきた。
年末だったか、覆いが外されると結構がっしりした建物が現れた。
外壁だけだったのがあるときから部屋として区切られ、内装のフェーズに入った。
どのタイミングだったか電気工事の時期もあった。
その時々で来ている人たちが違う。
外に積み上げられたものが違う。
 
いろんな人が入れ替わり立ち替わり関わって、
家というものはできて行くんだなということを今更ながら思う。
建物の入口に折り畳み式の吸い殻入れが置かれ、
先週前を通ったときは休憩時間だったのか、4・5人が壁際に並んで座っていた。
皆、腿から裾にかけてだぶだぶで、足首のところでキュッとしまった、
ペンキまみれのズボンを履いている。
中上健次の『岬』や『枯木灘』を読むと、ああいうのは乗馬ズボンと呼ぶのか。
手前の若者は頭にタオルを巻いて携帯ゲームに夢中になっていた。
 
ひとつの現場を終えるとまた次の現場へ。
雨の日、風の日、暑い日、寒い日。
決められた作業を決められた手順で淡々とこなす。
缶コーヒーを買いに行って、コンビニ弁当を食べ、タバコを吸って、酒を飲みに行く。
仲間内でしか通じない隠語まみれの冗談を言い合って、笑う。
そんなふうにして家というものができていく。
完成した建物は新しい素材でピカピカで傷一つなくきれいで、
内に外に通り過ぎて行ったたくさんの男たちの姿は全く垣間見えない。
痕跡を残さないというのも仕事のうちなのだろう。
 
何の変哲もない家のひとつひとつ。
そんな無数の家が、ひとつひとつ。
そんな家に僕らは暮らしている。