1968年12月。ボーナスシーズン。その頃はまだ手渡しだった。
現金三億円を運ぶ銀行の社用車に白バイ警官が近づいてきて、車に爆破物がセットされているという。
事件の数日前に支店長の家を爆破するという犯行予告があった。
白バイ警官が爆発物を見つけた、と言うと乗っていた行員4名は慌てて外へ。
白バイ警官はその車に乗って去っていった。
犯行現場のたった600m先でその車は見つかる。その後の行方は知れず…
ここまで見て、後ろ髪惹かれつつ布団に入った。
1975年に時効成立。
行員たちにけがはなかったし、奪われた現金も保険に入っていたため損失はない。
正直、犯人は頭いいな、と感心してしまった。
この時代にしかできない犯罪だろう。
多額の現金を行員が社用車で運ぶなんて、現代からするとなんて牧歌的なことか。
白バイが近づいてきたので信じたというのも、今ならそれこそ三億円事件があるので警戒される。
いまだ犯人はわからず。
何人かが浮上して、何人かは自ら名乗り出てテレビに出た。
単独犯なのか、協力者がいるのか。
今、どこでどうしているのか。
妻は言う。「銀行のお金を奪っても番号を控えているからおいそれと使えないのでは」
確かに。
本来はもっと雑な計画だった。先のことは考えていなかった。
偶然が多く作用してトントン拍子に事が運んでしまった。
車を乗り捨てて、なんとか逃げ延びる。
潜伏場所に決めた場所で長い間ひっそりと外界との交わりを断って生きていくことになる。
一人きりの犯行ならば誰にも何も言えず過ごすことになる。
音を小さくしたテレビで大量の警官を動員した捜査状況を日々眺めて、食べて、寝て、
ただそれだけの毎日。
何も知らずに食べ物を調達してくれる人が側にいたのかもしれない。だけどその人にも何も言えない。
そんな境遇、考えるだけで気が狂いそうになる。
6年後、時効を迎える。
それから先、小さなアパートの一室で現金3億円の入ったジュラルミンケースとともに暮らす。
工場とかスーパーとかで働く。時々職業を変える。誰にも何も言えないのは変わらず。
そうやって生きていく。何年も何十年も。
生きていれば、今、70代か80代か。
そして誰にも知られることのないまま死んでいく。
いや、そんなことはなくて、共犯者が大勢いて綿密な計画の元行われた、と考えるのが自然か。
1968年なので過激派グループであるとか。
アジトに到着したのちはしばらく潜伏して、ほとぼりが冷めた頃に偽造したパスポートで海外へ。
アジアか中東のどこかの国で静かに暮らしている…
それならまだいい。口封じにさっさと殺害された、という可能性もある。
しかし過激派の犯行ならばこの50年の間に誰かが秘密を漏らしてしまってもおかしくはないわけで。
それがないということは少数のグループによるものか。
それでも秘密をどうやって守るかという問題が残る。
犯行後、一人が仲間を皆殺してしまったか…