次に書く小説が少しずつ形になってきた。
大学を出て20年。
学生時代に映画製作サークルに属していた5人が再会して、一夜だけの撮影を行う。
夜新宿で落ち合って、かつて何度も撮影しに行った千葉の内房の海へと車で向かう。
道中いろんなことがあって、砂浜に着いても撮影はうまくいかなくて、
やがて夜明けを迎える。
皆40代になった。今も映画を志しているのは1人、「監督」だけ。
四畳半のボロアパートに住み続け、
夜勤の薬局バイトとスーパーの品出しのバイトで食いつないでいる。
映画を撮るために金が必要になるとシフトを調節して治験バイトへ。
一番軽いのしかやってないと本人は言うが、髪の毛がなくなったのはその影響か。
本人はいつ死んでもいい、という。
学生時代は8ミリで撮っていて、国内で現像できなくなるとビデオ。
やがてデジタルへ。しかし最新の技術に追随できたのもそこまでで、
学生時代、仲間内では才能があると思われていたが、コンテストで入賞したことはない。
そこまでのものは持っていなかった。
それでも映画を撮り続けるのは、諦めきれずに夢を追っているからなのか、
それとも人生他になく惰性なのか。
主演女優。20代のうちは働いていたが、IT企業の経営社と出会い結婚、専業主婦へ。
2児の母。私立のいいところに入れている。
大きな家に住んで週に2回家政婦に来てもらって、人生何の不満もないが、ときめくものもない。
旦那の会社も最近陰りが見え始めている。
演劇をやりたくて地方から上京してきた。
演劇サークルに属していたが、映画サークルの撮影によく呼ばれて何本も主演を。
当時の演劇・映画サークルでは場違いなくらいの美人だった。
自分には演劇の才能はないと早々と見切りをつけた。
夢は見ない。現実だけを見ようとする。
夢を追い求める人への憧れがある。
主演男優。学生時代はルックスがよくてモテモテだったが、ただそれだけ。
たまたま縁があって映画サークルに入って何本も主演を。しかし映画に詳しいわけではない。
今は営業の仕事を。向いてはいるし、それなりの成績を上げている。
大企業に入ったが、このままでいいのかと悩み始めている。
実際、上には上がいる。同期で先に営業部長になった者もいる。
10年前に職場結婚。無理なローンを組んで家を買った。
子供は1人。その教育費もどうするか。
スポーツ全般が得意だが、今は特に何もしていない。週末のジョギングぐらい。
金もかからないし、と本腰を入れ始めて40代になってマラソン大会にも出るようになった。
付き合い程度でゴルフもやる。
今回の撮影では(これも最近ローンで買った)SUVを運転する。
もう一人の女優。ズバズバ、というかズケズケものを言うタイプ。
大学卒業後、小さな出版社に入って雑誌の編集を。
独身。仕事が忙しすぎて常にお疲れ気味。
学生時代からそんなタイプだった。とにかくよく喋る。
演技がうまいというよりも個性派俳優的な脇役として欠かせなかった。
学生時代は主演男優のことが好きで、告白したがうまくいかなかった。
今はそのことも笑い話として話す。
このまま雑誌の編集として生きていくのだろうか、と思っていたところで初期の癌が見つかる。
腎臓癌。そのことはまだ誰にも言っていない。
そうか…、と思ったところで今回の映画の撮影の話が来た。
「僕」は小説家を目指して上京、なんとはなしに映画サークルに入った。
学生時代、自分でも2本監督した。
合宿をしたり遠くに出かけたりと撮影は楽しかったが、才能はなかった。
学園祭で上映して終わり。
ITバブルが始まりの頃だったのでIT企業に入ってシステムエンジニアとして働く。
結婚する気もなく出世する気もなく、将来的に何をどうしたいというのもない。
40代を過ぎていまだモラトリアムの中。仕事ができない、というのでもない。
同じアパートにずっと住み続けて、酒を飲んで週末たまに映画を見てというだけの日々。
学生時代は主演女優のことが好きだったが、告白できずにいた。
今回の一件ではビデオカメラでの撮影と、マイクで音声を拾ってヘッドホンで確認するのを頼まれる。