熊本へ その2(人吉へ)

午前0時前に寝て、何度も夢を見る。
関係のよくない人から言いがかりをつけられて、
こちらにも非があるというような。
そんな悪夢をひとつ見ては目を覚まして、また次の登場人物、背景でイチから繰り返す。
それを3つか4つか。
起きたのは9時前。雨が依然として降っている。
退位の日、朝からワイドショーでは皇室関係を。平成天皇と共に歩んだ30年。
先輩から LINE が届いて、映画サークルの後輩が病気で亡くなったことを知る。
朝は豆ごはんのおにぎり、玉子焼き。
 
この日は親子4人で人吉の温泉宿へ。
予約するときは特に考えずにいたけど期せずして
平成最後の日、令和最初の日を温泉宿でまたぐことになった。
10時に出発。南へ。
山の中をひた走る。緑が深い。
朝から雨。一日中雨。雲がすぐ目の前に下りている。
テレビをつけると平成を振り返る番組。
しかしトンネルをいくつも通るため、電波が入らず。
この日一番長かった肥後トンネルは6,340mで九州で一番の長さ、とのこと。
 
人吉インターチェンジで下りて、市街地に入る。
有名な鰻屋「上村」で食べようということになっていて、雨の中行ってみると
脇の駐車場がものすごい行列。
最後尾に加わってしばらく待つ。
入れ替わり立ち替わり交代して周りを歩いてみる。
初めては僕だけ。スナック街にあって、僕が小さい頃に育った青森市の本町に雰囲気が似ていた。
川に出る。球磨川。昨日の日田もそうだけど、大きな川に包まれた町はいい。
飲み屋の看板の多くに「繊月」のロゴが。人吉を代表する大手が「繊月」か。
 
1時間ちょい待ってようやく中へ。
座敷の小部屋になる。真ん中に囲炉裏がある。
うな重にする。席に着いてから焼くため、時間がかかる。それがいい。
創業110年余り。これまでにも多くの著名人が訪れている。
森繫久彌の額が鰻の煙で煮しまって飾られていた。
隣で鰻を焼いていて、ガラス窓で中が覗ける。
おばさんたちが大勢出入りする。
くまモンのイラスト共に「しーーーーっ」
「静かにしましょう、おきゃくさんからうるさいとクレームがありました」と壁に貼ってあった。
うな重が運ばれてくる。
身が厚く、歯ごたえがある。しかし、柔らかい。ああ、鰻って本来こういう味なのだな。
東京の鰻はもっと薄くて、そう、密度が薄い。上村の鰻はみっしりしていた。
これで2,900円は安すぎる。東京なら5,000円超えるな…
 
雨は止まず。
いったん駐車場に停めた車を取りに行って、宿に停める。すぐ近くにあった。
チェックインの時間はまだだったため、車だけ預ける。
町歩きへ。人吉駅方面に行くつもりが、方向を間違って遠ざかる。
そのおかげか、大正10年に設立された「大和球団」の石碑を見つけた。
「道具といえば捕手だけが擬革製のキャッチミットで、その他はほとんどが布製のグローブであった」
と書かれていた。そういえば人吉は巨人V9を達成した野球の神様、川上哲治の故郷。
 
鍛冶屋町の通りに入る。昨日の日田豆田町もそうだったけど、ここにも味噌醤油の蔵が。
世界一小さい美術館と称する、古い石倉を改装した町の文化・歴史を伝える展示室があった。
ステンドグラスやウンスンカルタ、臼太鼓踊りなど。
 
「上村」の通りにある「渕田酒造場」で試飲。
蔵を見せてもらう。紫芋の焼酎の仕込みが先週終ったばかりで、米焼酎の仕込みを始めたばかりだという。
ちょうど社長の方が大きな樽をかき混ぜていたところだった。
蒸した米を入れた樽に酵母を入れる。
1個の麹の菌が1昼夜でなんと2億個にまで分裂する。
その麹が米を食べて活発に生命活動を行う。
樽を見るとあちこちでプツプツと泡が生まれている。
この段階では麹が日本酒用、焼酎用と異なるが、できたものは清酒と同じであるとのこと。
ここに水と酵母を加えて、樽の中で15日間寝かせて、ときどきかき混ぜて、もろみができあがると蒸留する。
日本酒用の酵母は暑さに弱いため、鹿児島に近いこの地では作ってもうまくいかない。
なんで蒸留するのかというと発酵するときに生まれる酢の成分を取り除くためだったかな。
いろいろお話を伺えて、初めて知ることばかりだった。
夜飲もうとくまモンの描かれた小さい瓶をひとつ買った。
お義父さんにも一升瓶を買ってもらった。
 
これらを一度ホテルの駐車場まで持っていって、車の中へ。
また市街地を歩く。
人吉駅前に出ると黒い煙がモクモクと。SLが停車してるんじゃないか。
 
青井阿蘇神社脇の土産物屋に入る。
球磨焼酎のあれこれが売られている。
武者返し、六調子、豊永蔵…
「人吉」の3年物もの、5年もの、15年ものを試飲する。
裏側から神社に入ってお参り。
正門から出て写真を撮ろうとしたら、お寺の方が近づいてきて、
ここでこの角度で撮ると鳥居と門がきれいに収まっていいですよと。
続けていろいろと教えてくれた。
川を渡って向こうの永国寺に西郷隆盛の位牌があり、幽霊の掛け軸で有名。
林鹿寺には勝海舟の書があり、西南戦争のときの刀や鉄砲が飾られていると。
 
せっかくなので永国寺まで行ってみた。
建て替えたのか、とてもきれいなお寺だった。
幽霊となった女性を描いた掛け軸を見る。
先ほどの方のお話ではこれはレプリカで、本物が見れるのは年に一度あるかどうか。
奥の方にその幽霊の現れたという池が。雨に濡れた美しい庭だった。
西郷隆盛の書もあった。
 
繊月酒造がこの近く。蔵見学をする。
作り方そのものは先ほど見た渕田酒造場と同じだけど、こちらの方が規模が大きい。
発酵・貯蔵のための大きなタンクが並んでいる。
ここの試飲室は以前テレビで見たけど、広くてきれい。
テーブルに試飲用の瓶が並んでいて、蔵限定の古酒だろうといくらでも飲めて太っ腹。
10年以上樽で熟成させた「無言」がウィスキーのようにおいしく、
6本買うか1万円以上で送料無料とあってけっこう買ってしまった。
「川辺」の一升瓶も2,400円ぐらいだったかな。安かったのでこちらも1本。
 
宿に戻ってチェックイン。
川沿いにあって川の流れる音が聞こえる。
退位の儀式が行われるころだった。
僕は向かいのスーパーに酒を買いに行った。戻ってきて温泉に入りに行く。
洗い場が畳となっているのは熊本だからか。
いや、義父や妻に聞いても他に聞いたことがないという。
でも清潔感があるし、タイルのように滑ることがない。
200年近く前が創業で、天皇陛下与謝野晶子美空ひばりもここに泊まったことがある。
藤島部屋と懇意で、武蔵丸が泊ったこともある。稀勢の里の手形もエレベーターの前に貼られていた。
風呂から出て、皇室の番組を。退位の儀式の録画を見た。
広間に夕食を食べに行く。
鮎の塩焼きなど。鶏つくね鍋や鶏の陶板焼きなどどれもおいしかった。
 
部屋に戻ってきて、皇室の番組の続き。
皆腹いっぱいで疲れている。
20時過ぎだというのに布団に入ってぐったり。
僕はもう一度風呂に入りに行って、缶チューハイを飲む。