プレッシャー

今の家に引っ越して3年。
それまで裏の駐車場に大きなゴミ収集所があって、何も考えず便利に利用してきた。
それがマンションが建つことになって急に廃止。
ゴールデンウィーク明けから隣の家と共同で家の前を収集所とすることにした。
瓶、缶、ペットボトルは月曜。
練馬区の場合、折り畳み式のコンテナは各収集所で保管ではなく収集業者の方が朝、
トラックに乗って一軒一軒運んでくる。
 
最初の日、届いたのは6時半だった。
朝はいつも 5:50頃、家を出ていたのでこれからは遅くなるな、と思った。
家の前で待っていたら業者の方曰く、今日は場所を確認しながらだったから遅くなったと。
ゴールデンウィークが明けてこの周辺でいっきに10箇所ぐらいは増えている。
 
ルートが定まったからか、その次の週からは6時前後に届くようになった。
それでもいつもより10分遅く出ることになる。毎日乗る車両の2本後となる。
ま、それぐらいしょうがないか。
収集業者の方がコンテナを置いていったらすぐその場で出してそのまま出社するかと
このところ月曜の朝、家の前で待っていた。
到着するとおはようございますと挨拶して、
ありがとうございます、よろしくお願いしますと交し合う。
お互いボソボソと。
 
それが昨日、5:45頃には箱が届いた。
2階のキッチンにいて、トラックが止まる音が聞こえた。
急いで1階に下りるが既に配置した後だった。
少し先のマンションへとトラックは向かっていた。
 
毎朝の僕を見て、ルートを変えてくれたのだろうか。
ありがたいと思う反面、無言のプレッシャーをかけてしまったのかもなと。
収集業者の方といつも挨拶を交わしてきたが、社交的な方には見えなかった。
無人の街を朝、一人きり誰にも会わずに仕事がしたくてこの職を選んだのかもしれない。
僕のような異物と出会うぐらいならルートを変えてしまったほうが手っ取り早い。
 
いや、この日たまたま早かっただけという可能性もあるし、
他にも大きな収集所が廃止になって小さな個別の収集所に分散して、
指定の時間に間に合わせるためにもっと早い時間から回り始めたのかもしれない。
 
配達の前にホースでざっと洗うのだろう、濡れたコンテナを広げる。
スーパーの袋に詰めた空き缶をそっと逆さにして、箱にぶつかる甲高い音が聞こえる。
瓶はたいした分量じゃないから一本ずつ立てていく。
ネット状の大きな袋を立ててペットボトルを数本その中へ。
スーパーの袋をキッチンのプラゴミの方に捨てて、鞄を肩にかけて家を出る。
あちこちの家の前に折り畳まれて平べったくなった
瓶の赤いコンテナと缶の緑のコンテナ、ペットボトルの青いネットが無言で並んでいる。
トラックは既に走り去っていて、僕は一人、誰もいない街を歩く。