永遠の夏休み

夜は仏壇のある部屋の隣の応接室に布団を敷いて、遊び疲れて雑魚寝。
縁側のガラス戸は閉めていたか。池の鯉がポチャンという音を時々立てる。
時折車が通り過ぎていく。ヘッドライトが射しこんで通り抜ける。
蚊取り線香の匂い。それでも飛び込んでくるのが一匹、二匹。
誰かがぴしゃりと腕を叩く。
床の間に飾っている鷹のはく製が真夜中、動き出さないかが気になる。
その内に寝付いてしまう。
 
6時前。最初に起きるのは誰か。
既に叔母たちが台所仕事で忙しくしている。
従姉がラジオ体操に行くというのでついていく。
近くの神社の境内だったか。
帰ってきてズームイン朝を見ながら朝食。
ご飯と海苔と納豆と味噌汁。
 
蝉がうるさいぐらい鳴いていて、虫かごと網を手に畑の側を歩いて裏庭へ。
網を振るだけで蝉が取れる。すぐにも虫かごがいっぱいになる。
戻って来て網戸に蝉を貼り付ける。びっしりと蝉、蝉、蝉。
 
テレビでは甲子園。
あの頃の青森は、青森だけではなく東北地方は弱かったな。
光星学院聖光学院仙台育英も強豪校ではなかった。
脇水で冷やしたスイカを切るので持ってきてくれと言われる。
トマトも冷やしている。
年上の従姉が台所でアジシオをかけてトマトを丸かじりする。
イカを運ぶとまな板の上で割って外で食べる。
種はその辺にプッと飛ばす。
 
昼前に近くの店にアイスを買いに行く。
野菜も野菜の種も肉も模型飛行機も何でも売ってるような店。
暑いのに店まで走って競争する。
入口を開けるとピンポーンと鳴る。
ケースを開ける。一人一個と決まっていてわれ先に選ぶ。
棒に刺したラムネのアイスか。カップに入った宇治金時か。
帰ってきてテレビの前で食べる。扇風機の前が特等席になる。
 
休みの日で昼まで寝ていた叔父が起きてきて安い焼酎を飲む。
甲子園を見ながら、一日中寝るまでずっと飲んでいる。
店に行って買ってこいとポケットから取り出した千円札を何枚か渡され、
お釣りで花火を買えと。
また店に買いに行く。「純」とか「SUN」とかそういう大きなボトルを。
花火を選ぶ。手に持つのだけで一番数が入っているのにするか、
半分ぐらいのサイズのにして、代わりにドラゴンをいくつかとするか。
 
帰ってくると昼はカレーをつくってあるという。
朝からくたくたになるまで遊び回って、走り回って、
イカを食べてアイスを食べて。
それでもまだ半日しか経っていない。
 
あの頃は一日が長かったな。
星空の下での花火を楽しみにしながら
午後は川に出たり、村はずれの方に行ったり。
蚊に刺されまくって、ムヒを塗って、また遊びに出かける。
叔父がまだ酒を飲んでいなかったら海に連れて行ってくれることもあるだろう。
夏休みは永遠で、子ども時代も永遠に続くようになんとなく思っていた。
80年代前半、40年近く前のこと。
夏はそんなに暑くはなく、衛星放送のアンテナもなかった。
魚を売る行商のトラックが時々来ていた。
水はどこで飲んでもきれいだった。
今はもう多くのものが失われてしまっている。
その記憶もどんどん色褪せていく。
当たり前の日々だったから写真一つ残っていない。
そんな、永遠の夏休み。