久保田麻琴

最近、遅ればせながら久保田麻琴を聞いている。
興味の範囲としてはドンピシャのところなのに、なんで今まで縁がなかったんだろう……
1960年代末から1970年代前半までの数年間、
伝説というかもはや神話に近い「裸のラリーズ」のベースとして活動。
1970年の1年間、大学を休んでアメリカに渡ってニューヨークとサンフランシスコへ。
Grateful Dead や Sly & The Damily Stone などを生で見る。
帰国後、デビュー。70年代半ばには久保田麻琴と夕焼け楽団を結成。
沖縄やハワイの音楽をチャンプルーする。
80年代後半以後、今に至るまで
バリ、ハワイ、イスタンブールなどアジアを中心に世界各地の歌と演奏を録音、共演。
90年代からはシンガポールインドネシアのミュージシャンのプロデュースを。
有名なところでは Dick Lee も手掛けている。
身もふたもなく分かりやすく一言で言ってしまえば
「裏細野晴臣」「和製Ry Cooder」か。実際仲がいいとのこと。
 
最近入手できたいくつかのアルバムについて。
 
『ワールド・カフェ』(2001)
キング・レコードから出ていた『World Roots Music Library』のシリーズから
選曲してコンパイル
バリのガムラン、モンゴルのホーミー、アンデスチャランゴマダガスカルの竪琴…
当たり障りないワールドミュージックの入門編ではなく、心地よい、不思議な浮遊感を感じさせる。
でもここでは選曲だけなので他のを聞いてしまうと物足りない。
 
『Cafe Mekon』(2003)
メコン川と言えばタイやカンボジアを流れる川。
その流域のカフェで聞こえてくる現地の音楽を想定して録音。
多くは弦楽器ひとつと打楽器ひとつといったシンプルな演奏で、
そこに川の流れる音や鳥の鳴き声をかぶせている。
アンビエントではないけれども、癒し系か。
カフェに吹き抜ける風や雑踏のにおいをそこはかとなく感じさせますね。
このシリーズでは『Cafe Siam』というのも出ている。
 
『Spirt of Healing ~ Bali ~』(2005)
久保田麻琴のこの手のものでは一番売れたのかな。その分中古も多く出回っている。
試しにヤフオクを見てみたら大半がこのアルバム。
タイトルにヒーリングとあるけど、アンビエントなものを想像するとちょっと違う。
現地でフィールドレコーディングした唄やガムラン、水辺の音などに
自身で弾いたアコースティックギターニューエイジっぽいシンセ、浅めのダンスビートを重ねている。
それが「重ね」たままに終わっていて、正直さほど面白くなかった。
足すならアコースティックな音だけでよかった。
寝る前にガムランの音で心落ち着けよう、と思って買った人が想像と違って即売ったんだろうな…
このシリーズ、他にインドのも出ている。
 
『Bali Dream』(2008)
前述のアルバムの続編。
こちらもフィールドレコーディングに対してダンスビートなど様々な要素を加えているんだけど、
もっと踏み込んで「融合」に至っている。ひとつひとつの音に違和感がない。
最後の曲ではかなりワイルドなギターまで演奏される。
これはもはやバリではなく、バリのパラレルワールドから届いたどこか異世界の音楽であるように思う。
タイトルに「夢」とあるのもその通りだな。傑作。
 
『KAUAI March-05』(2005)
久保田麻琴宮古島、バリと並んで深く共鳴しているのはハワイ、特にカウアイ島であろうか。
こけではアンビエントな音は味付け程度、スラックキーギターと歌声、波の音が中心。
特に後半、島で出会ったという賛美歌を歌う女性たちの歌声にまさに「祈り」を感じる。
これこそ言葉本来の意味でのスピリチュアルな音楽ではないだろうか。
田舎道に虹が差し掛かるというジャケットも美しい。
音による旅、そのサウンドトラックとでもいうか。
このアルバムが久保田麻琴にとってひとつの頂点なんじゃないかな。