広島へ その3

(15日の続き)
 
厳島神社まで歩いていく途中で観光客向けの遊覧船が客引きをしていて、
その先でまた別の「魯櫂舟」というのが声をかけてきた。
見ると細長い舟の上で乗客は笠をかぶって、舳先にいた船頭がガイドをして
後方の若者が長い魯で漕いで海の上をのんびりと進んでいた。
鳥居まで行って戻って来て、20分で1,000円だという。乗ってみることにした。
 
で、その鳥居はと言うと見えない。
客引きのお兄さん曰く、鳥居は今修理工事の前の状況確認中なのだという。
フェリーから見えた銀色のパビリオンみたいなもの、あれが鳥居だったのか!
昨日の広島駅の観光案内所ではそんなの聞かなかったし、
フェリーの中のテープの案内にもそんな話はなかった。
せっかくここまで見に来たのに…
お兄さんが言うには、どれほど鳥居が痛んでいるか調査してみないことには
工期がどれぐらいになるかわからず、何年先になるかまだわからないとのこと。
いつもだとこの舟も行列になっているのに今は客引きをしないと乗ってくれない。
 
戻ってきた舟に乗り、笠をかぶる。
色黒の船頭さんが小さなマイクを持って話し出す。
若者が魯を漕いで少しずつ少しずつ岸から離れていく。
パドリングをしている人たちがカヌーに乗って通り過ぎていく。
何年にこの神社や鳥居ができたのか歴史の話をした後でやはり修理のことに。
そもそも工事が始まる前の正月やゴールデンウィークの混み具合はこんなものじゃなかったと。
今日も厳島神社に入るには行列ができているけど、
ゴールデンウイークにはそれが桟橋まで伸びていて3時間待ち。気が遠くなる。
 
海側から鳥居に近づく。今は足場が組まれ、
銀色のきめ細かい格子のようなもので全体が囲まれている。正に建設現場。
鳥居の朱色も塗り直す。今は相当くすんで柿のような色になっている。
厳島神社に近づいて反対側から鳥居を見る。
ここでお参り。船頭さんがそれぞれのグループの写真を撮ってくれる。
もう2時間もしないうちに干潮になって、この舟も通れなくなる。
14時半には干上がって歩いて鳥居の近くまで近づけると。
岸に戻る間に宮島の生活の話になって、小学校・中学校は生徒が減って今100人ほど。
来週は島をあげての運動会だという。
 
舟を下りて厳島神社まで歩いていくと確かに行列。
この暑いのにかなわん、さっき舟の上でお参りしたから入るのはいいか、となる。
その手前、階段を上ったところにある豊国神社に行ってみることにする。
豊臣秀吉が建立を命じたかその途中で亡くなって未完成のまま。
千畳敷のお堂に足を踏み入れると心なしか涼しかった。
柱にもたれ座っていると風が吹き抜ける。しばらくここで休むことにした。
忙しい日常生活では忘れていた感覚。とても居心地よかった。
梁の上には虎や馬を描いた何百年にもなる古びた額が飾られていた。
そのうちのひとつには囲碁の盤面が。
20年ほど前のJR西日本主催の大会の結果を記した新しいものもあった。
後で聞くとここは囲碁の聖地のひとつなのだと。
 
豊国神社を出て12時過ぎ。
路面電車の宮島ロープウェーの広告があって混む日には予約が必須とあった。
サイトを見てみるとこの日がまさに混雑日。
せっかくだから乗ってみるかと iPhone から予約した。
それが13時からであと1時間ある。
乗り場は島中心部の山を上った途中の紅葉谷公園の中にある。
ゆっくりと向かうことにした。
途中見かけたおしゃれなカフェでみかんの入ったハイボールを買って飲んだ。
甘味処などの並ぶ通りを歩いていくうちにいつの間にか木々に囲まれた遊歩道へ。
小川が流れていて、ごつごつした岩の間を澄んだ水が流れている。
開けた場所にはベンチや東屋があって老若男女が木陰で休んでいた。
ロープウエー乗り場の入り口までは10分もかからなくて、
13時になるまでの間は小川の浅瀬の中に入って過ごした。
冷たい水で顔を洗うと気持ちよかった。
 
ロープウエー乗り場へ。係の方に予約した時のQRコードを見せる。
半分以上外国人の観光客だった。切符を買う。往復1,800円。
階段を上ってホームへ。
暑い日でところどころ配置された扇風機や送風機がフル稼働していた。
最初に乗ったのはスキー場のゴンドラのような8人乗りの小さなもの。
これがグルグルとたくさん回っている。
乗り込むと特にテープの案内などはなく、
窓が頑丈な網戸で覆われているものの中は蒸し暑い。
しかし山をどんどん上っていくうちに
瀬戸内海が視界に広がっていくのを見下ろすのはは気分がよかった。
7・8分ぐらい乗っただろうか。
 
途中の駅で降りて今度は30人乗りの本格的なロープウェー。
瀬戸内海の小さな島々が点々と散らばっている。
これは2・3分もかからなかったか。
終点の駅でロープウエーを出ると
帰りの方に乗るのを待っている人たちの行列がとんでもなく伸びていて、
これはもしかして1時間ぐらい待つんじゃないかと。
展望台を少し見たらすぐ引き返すことにした。
 
9月も半ばだというのにまだ蝉が無数に鳴いていた。
マムシに注意という掲示があちこちにあった。
この駅は山頂にあるのではなく、
弥山という名のてっぺんは絶景とはされるものの
そこから先に片道30分の山道を行く。
さすがにこの陽射しの強い日に短パン・サンダルでは無理。
展望台から瀬戸内海の島々を眺める。
それぞれの島に向けた展望用の鉄の筒のようなものが設置されていて、
レンズは無いものの覗くとその島が真っすぐ見えるようになっている。
大黒上島、小黒上島、大奈佐美島…
なぜか四国に向けられた筒はふさがれていた。
 
覚悟して下りの乗り場に向かうと待ちの行列がはけていてすぐ乗ることができた。
遊歩道をまた歩いて厳島神社の方へと向かう。
14時過ぎ。妻が友人から勧められた大聖院というお寺に行ってみる。
外れの方にあって家並みも鄙びている。石垣の上に築かれた町屋であるとか。
しめ縄を飾った家が多かった。左側が垂れ下がっている独特な形をしていた。
仁王像を両脇に従えた門をくぐると
大聖院は広い敷地の中に太子堂、摩尼殿、遍照窟とありつつも
動画を見ることのできるQRコードを記したカードを配っていたり、
アンパンマンのお地蔵さんがあったりと聖俗兼ね備えた不思議なお寺さんだった。