那須へ その3

 

(5日の続き)
 
そのまま下道を走って鹿沼市へ。那須は広い。
矢板市。シャープの大きな工場。
この辺りだったか、あちこちの家に蔵があった。
鹿沼市に入って、川村澄生美術館を探す。図書館の隣りにあった。
企画展はふたつ。2階で清宮質文、1階で栃木県出身の髙倉浩三。
川村澄生が版画家だからか、共に版画家。
どちらも本日から展示開始で清宮質文の方は特別に館長自ら解説を行っていた。
清宮質文の版画は独特な孤独感、寂寥感を湛えていて美しかった。
何もない空っぽな世界に起こる出来事、というか。図録を買った。
合わせて川村澄生と棟方志功を重ねた企画展の図録も買った。
棟方志功は川村澄生の版画を見て、自分は版画家になると決めたという。
川村澄生はやはり「初夏の風」がいいなと思う。
 
美術館の隣に妻が気になる建物があると言って入ってみた。
鹿沼市の郷土資料展示室だった。屋台を飾っている。
近くには「屋台のまち中央公園」というのがあって、
「屋台? ラーメンとかおでんの? 屋台村がある?」と思っていたら全然違った。
屋台とはお祭りのときに引くもの。
しかし神様を下すためのアンテナをもつ山車とは違って、
屋台とは神に捧げる踊りを披露するための舞台。
この鹿沼市では各町内がそれぞれ自分たちの屋台を持ち、競い合ったため、
彫り物としても飾り物としても非常に緻密なものになった。
今は20数台が現役で祭りに登場し、そのうち13台が江戸時代に作られたもの。
最も古いものは1812年につくられている。
漆塗りの屋台に彫刻、彩色を施した。しかし文政の時代に華美なものが禁じられて、
火事で焼けて1850年代に作り直したものは白木の屋台、白木の彫刻となった。
展示室に飾られている2台は昭和、平成に作られたものだったけど、
江戸時代のもいまだ現役というのがすごい。
 
鹿沼市に入ったとき、「鹿沼秋まつり」のポスターをあちこちで見かけた。
今年は10月12日、13日。そうか、来週お目見えするのか。
展示室の係の女性の方が懇切丁寧に解説してくれたんだけど、
明日日曜、祭りのためにこの展示室の外に出すのだという。
いいタイミングで見に来ました、と言われる。
土曜は神社の例大祭で神社に繰り入れた屋台の繰り出し、
日曜は市民の祭りとして屋台のパレード。
引っ張られた屋台は町の中心部で出会い、「ぶっつけ」合う。
屋台そのものをぶつけ合うのではなく、お囃子を競い、どちらが先に通るかを決める。
ああ、これって日本全国の祭りであるんだろうなあ。
この前、新日本風土記下北半島が取り上げられていた時、
むつ市の祭りで同じように引っ張って、街中でぶつかったときにお囃子で勝敗を決めていた。
ハンドルはなくて、曲がるときには持ち上げて向きを変える。これも品川の祭りがそうだった。
 
資料館では他、遺跡から見つかった土器のコーナーなど。
鹿沼市では全国の麻の9割以上を生産している。
横綱のまわしにも鹿沼市の麻が使われている。
しかし大麻所持が問題になる昨今、生産農家はかなり減ってしまい、
麻を繊維にすることで大きくなった会社も今は消防車のホースをつくっている。
 
せっかくなので「屋台のまち中央公園」の屋台展示館の方も見に行った。
ボランティアなのかな、ガイドのおじいさんが閉館時間を過ぎて同じように熱心に語ってくれた。
昨晩のレイクビューのクルーズ船のおじさんもそうだった。栃木の人は熱い。
これまで日本各地の民俗資料館に入ったけどここまで熱心に解説してくれるところは初めて。
青森も含めて、他はつくりっぱなし、予算の都合もあるんだろうけど客が来てもほったらかし。
 
ここは黒の漆塗りの彩色彫刻屋台、黒の漆塗りで白木のままの彫刻屋台、全て白木のままの彫刻屋台、
3種類がガラス張りの展示室の中に飾られていた。階段を上がって上からも眺めることができた。
これら3台の彫刻屋台も祭りのときには出陣する。背後の壁が大きな扉となっていた。
おじいさんから多くのことを聞いた。
一台つくるのに251両かかって今のお金だと1億以上となること。
唐獅子牡丹や獅子の子落としといった題材を描いているということ。
町内会と言っても今は後継者が少なく、シャッター街となっているところもあること……
かつては祭りを終えるとパーツごとにばらして箱に保存していたのが、
今はその手間もかけられずそのまま倉庫やこういった資料室で保存している。
鹿沼市は木彫りの彫刻も釘を使わない木製の車輪も、彩色も飾りも全ての職人を自前で持っている。
組木細工も寄木細工も得意、和室が減って木工細工の職人が全国的に廃業してしまったため、
今、鹿沼市の木工職人は全国から引っ張りだこであると。
そうか、AIの時代に生き残るのはこういう職人たちなんだろうな。
 
あれこれお話を聞いてすっかり鹿沼市びいきとなる。
来週のお祭りもなんとかああ都合をつけて来ようかな。
市の後任の手ぬぐいを買うと屋台を引っ張る綱を一緒に握れるという。
 
屋台展示館を出て、すっかり暗くなっている。
遅くなっても疲れるだけだからと高速に乗って帰った。
まだ土曜だからか東北道も外環道も渋滞に捕まらなかった。
昨日が下りの蓮田SAに入ったので、今回は移転して新しくなった上りの蓮田SAに入る。
確かに大きく、きれいだった。フードコートもいろんな店が入っている。
伝説のすた丼屋まで!
中華の店で肉まんを買って歩きながら食べていると、スーパーがあった。
これは気が利いている。明日食べるものをわざわざ買いに行かなくていい。
弁当用の常備菜につくるつもりだったきんぴらごぼうのためのごぼう、二本入って250円、
こんなの初めてというぐらい太くて長いのを買った。むしろ安い。
2割引きになったするめの天ぷらも合わせて。
 
和光ICで下りて家に到着。みみたが玄関前でお出迎え。
ペットシッターさんの報告を読むといい子にして過ごしていたようだ。
荷物を片付け、道の駅で買った野菜を冷蔵庫へ。
同じく総菜は缶ビールを飲みながら。
昨晩イタリアンレストランで買ったホットオイルをさっそくかけて食べた。
ラグビーサモア戦の後半を見る。2倍の点差をつけて勝った。
いつの間に日本はこんなに強くなったのだろう。
終わって『ノッティングヒルの恋人』の後半。
養老孟司先生のところの猫、マルちゃんの番組を見て、その後お笑い向上委員会へ。
魔王ことザブングル加藤が復活したようだが、これも後半のみ。
 
二日間とは言え、思いがけず充実した旅になったな。
りんごう湖レイクサイドビュー、那須をジョギング、塩原の道の駅、鹿沼市の彫刻屋台……
来週は行けたら「鹿沼秋まつり」へ。
パンフレットがしっかりしている。寝る前これを読んで過ごした。