福岡、唐津 その3

(3日の続き)
 
11時半、14台全てが無事に通り過ぎていくと先輩の家にお呼ばれして、おもてなしを受ける。
2階に上がると広間にテーブルが2列並んでその上に鯛の塩釜焼きや鯛の刺身など。
その他サザエに蟹にエビフライ、海の幸がたくさん。
まだ誰も手をつけてなくて妻が塩釜焼きの塩を木づちで叩いて割った。
中から昆布を敷いた鯛が出てきた。
これがほんとうまかったなあ。何度も切り分けてもらって食べた。
唐津の酒「太閤」がグイグイと進んだ。
先輩、先輩のお母さんを初めとして女性たちが皆総出でおもてなし。
先輩のお父さんの弟という方が僕らを含めて皆に酒をついで回っていた。
いつ飲んだのか、僕ら最初の方の客が上がってくる前にすでに顔を真っ赤にして出来上がっていた。
先輩の家では今、鯛を出しているが昔はアラの姿煮だった。これが唐津くんちの名物なのだと。
他のところでは大皿に盛ったアラを運んでいるのを見かけた。
 
飲みながらねぶたの話になる。
昔は、戦後の頃は、ねぶたも今よりもだいぶ小さくて各町内で出していたから、
もしかしたら唐津のようなおもてなしを、規模が違うとはいえ行っていたかもしれない。
Nさんの住む博多の山笠の話も聞いた。
 
1時間ほどおじゃまして先輩の家を出る。
先輩たちはこのあともずっと料理を供し続ける。大変だ。
僕らがいる間にもお客さんが次から次に来て、
僕らが去った後も夕方までそれは続き、明日もまたそれが。
明日は曳山を曳いていた若者たちをもてなすために唐揚など若いメニューにするのだとか。
 
唐津神社の方まで歩いてみる。
朝の閑散としたアーケード街が嘘のようにたくさんの人出。
唐津焼の店が何軒も並んでいた。各曳山を描いた瓦煎餅を売る店もあった。
参道に入ると無数の屋台が並ぶ。
全国から集まってくるのか、中津の唐揚といった九州のB級グルメに限らず、
じゃがバターの屋台も出ていた。
射的やお面といった昔ながらの屋台の隣りに
時代を反映して「うんこドリル」の先生のぬいぐるみやタピオカミルクの屋台があった。
 
神社でお参りして、その先の西ノ門館という小さな道の駅っぽいところを覗いて
(鯨の粕漬が名産らしかった)
その横の、西の御旅所という広場に行ってみる。
各町内の曳山がここに昼前に集まって、15時より各町内に戻っていく。
全ての曳山が一堂に会すので見ごたえがある。
しかし人手がすごすぎて身動き取れず。通りを渡ったところからようやく垣間見えた。
 
朝から歩きっぱなしでおもてなしも受けて、14時、おなかいっぱいの気持になる。
先輩のところに顔を出して福岡に帰ることにした。
途中の曳山ルートを歩くと中学生、高校生ぐらいの女の子二人という組み合わせで路肩にしゃがみこんでいる。
15時からの曳山を待っているのだろう。
妻が言う。あれはきっと憧れの先輩が曳くというので待っているのだろうと。
後で先輩も言う。祭りのときはいつもよりも男の子たちがかっこよく見えるものだと。
 
市役所前の唐津さんの野菜や果物を売るマーケットを通り抜けてアーケード街へ。
先輩の家に行くと完全に酔っぱらったお父さんが担がれて帰ってきたところだった。
以前この唐津くんちの重職を担っていたので、今もあちこちにあいさつ回りをするのだと。
祭りは大変だ。
 
唐津駅福岡空港行きの来る20分も前から並ぶ。
電車が来る頃にはホームがいっぱいになっていた。
しかし早くから待ったおかげで座って帰ることができた。
なんかのトラブルがあったようで唐津駅を出てすぐ10分ほど停車。
なんだったのだろう、と思う間もなく1時間半近い道中、3人は歩き疲れて爆睡。
 
同行のNさんは途中の駅で降りた。
妻と僕は天神の一つ手前、赤坂で下りてぶらぶら歩く。
大名通りのいい感じの飲み屋の集まっている界隈を歩いていると
気になる洋服屋があって妻も僕も散財。
店員の方が元気で売り方がうまくて、ついつい買いたくなる。
パリの見本市で見かけた西海岸のブランドで日本には他に入ってきていないワンピースだとか、
The North Face とコラボしたショルダーバッグやフリースなど。
もう一軒、歩いていたら見つけた店がイギリスの職人のつくる一生ものの服を売るとかで、ここでも。
僕も妻もおもいっきりお金を使ってしまった……
これを抱えて飛行場に向かうのは無理と段ボールで送ってもらうことにした。
 
一軒目の店員の方からおすすめの飲み屋を聞く。
最初「百式」という炉端は焼きの店に行ってみるも満席で入れず。
もう一軒「八重吉」という焼き鳥の店はかろうじて入ることができた。
鶏もつ、黒皮、つくね、ゴマサバ、何を食べてもおいしかったなあ。
活気があって焼くのも早い。
洗練されつつもアジアの猥雑さを兼ね備えていて、居心地がいい。
周りはほぼ大人のカップルだった。
 
店を出てまだ19時半だったので天神をそぞろ歩いてホテルに戻ってくる。
デパートには行ってみるも20時で閉店。案外福岡の夜は早い。
その一方でおいしそうなバルや居酒屋はどこもかしこも満席。
福岡は経済が回っているなあと実感した。
九州が独立してもやっていけるというのはあながち嘘じゃないなと思った。
 
バスタブにお湯を入れて入り、缶チューハイを飲む。
NHKのクラシックを聴いて寝る。
唐津くんちのアプリを立ち上げると、曳山のアイコンが各町内の戻ったことを示していた。