小豆島へ その2

(30日、続き)
小豆島の土庄港に着く。
この日必ず行きたかった場所として、妻は尾崎放哉記念館を挙げていた。
友人が最近訪れたのだと聞いて、吉村昭による評伝『海も暮れ切る』を妻は読んでいるところだった。
尾崎放哉と言えば「咳をしても一人」「いれものがない両手でうける」といった自由律俳句。
夏目漱石に学んで東大法学部を出てエリートサラリーマンだったのが
酒に溺れて家庭も仕事も投げ出して、あちらこちらと転々としては金と酒を無心する毎日。
最後は小豆島で墓守をしていたのだという。
 
この記念館が港の近くにあってまずはそこに行こうと。
その前にコンビニに寄ると目の前に大きな観光センター兼土産物屋が。
揚げそうめんのスナックにオリーブの身の入った食べるラー油
オリーブオイル入りのパスタとパスタソースと見るもの皆美味しそうでたくさん買ってしまった。
食堂ではアイスにオリーブオイルをかけたものとオリーヴ入りの素麺を頼んでみた。
素麺ってこれまでとりたてて好きではなかったんだけど、
それっておいしい素麺を食べたことがなかったからだな。
生まれて初めておいしい素麺を食べた。
オリーヴもさることながら、水がいいのではないか。
茹で具合、締め具合がよかった。
食べ終わった頃、団体のバスが到着して賑やかになる。
 
記念館はそこから車で5分ほどのところにある。
港はあるが潮に焼けた漁師町というのではなく
大きなダイソーにドラッグストアというよくある田舎町。
違うのはオリーヴの木が家の周りなどあちこちに植えられていることか。
生前の尾崎放哉が墓守をしていたからか墓地の脇にある。
南郷庵という一間きりの小さな庵に住んでいたのを再現したのか、そこに資料が集められている。
墓地には尾崎放哉の墓もある。探してみる。
入口には戦没者を祀る慰霊の塔が形作られていた。
無数の墓石を積み上げてピラミッドのようになっている。
墓地はこの地域独特なものなのか、区画には分けられているが塀で囲われてはいない。
砂っぽい土の中に墓石があるだけ。仏花ではなく、榊を備えているところが多い。
尾崎放哉の墓を見つけて手を合わせ、「墓のうらに廻る」
 
記念館は吉村昭の『海も暮れ切る』を橋爪功を主演にNHKがドラマにしたときの撮影の模様の写真や
尾崎放哉との往復書簡、代表的な句を書いた色紙や山笠など。
自由律俳句のコンテスト「尾崎放哉賞」「放哉賞」の歴代の優勝作品の短冊も飾られていた。
応募してみるかな、と思ってチラシを見てみたら今年の締切はまさに今日、11月30日だった。
尾崎放哉の句集を買う。
 
紅葉がきれいなので見晴らしのいいところに行って瀬戸内海を眺めようということになる。
島の真ん中に「四方指展望台」があって、ホテルはその近くだとわかる。
記念館の近くのコンビニで酒を買い込んで、車へ。
海辺の町から山の中に入っていくとここが島だとは思えなくなってくる。
それぐらい島が大きく、その大半が山、急なヘアピンカーブが続く。
紅葉のトンネルを抜けると瀬戸内海が広がる。
展望台に着いた。先に車が何台か駐車場に留まっていた。バイクも1台。
瀬戸内海を見下ろす。入江に船が停泊している。静かに、静止しているようにみえる。
遠くに見えるのは広島、岡山方面だろうか。都市部の建物が海辺に密集している。
反対側からは高松方面も。
向こうにロープウェーの鉄塔。
団体客が観光バスに乗って、この時期はギュウギュウだと紅葉を見に来て、
記念館の若い女性の係の人も言っていた。
 
車に戻り、もう一つ先の展望台にも行ってみた。
松尾芭蕉の句が石碑となっていた。
夕暮れの斜めに差し込む光が山いっぱいを照らす。
その日最後の光を浴びて島は輝いていた。
ホテルに行こうとして山道を引き返す。
西日がまぶしく、目がくらんでいるうちになぜか一つ目の展望台に戻っている。
眩しい、と思ったところでちょうど右に曲がるのを左に曲がっていた。
かたぬきに化かされたと妻と言いあう。
 
ホテルへ。16時過ぎには到着した。
リゾートホテル。シニア世代の方たちがテニスを興じている。
水を抜かれたプールがごろんと転がっている。
ロビーでウェルカムドリンクのスパークリングワインを飲んだ。
クリスマスを前にしてお菓子の家をつくっているところだった。
クッキーを壁に貼り付けているところだった。
 
大浴場へ。露天風呂から夕陽が見えた。
団体客も多く、夕食前の時間は洗い場もないぐらい混んでいた。
18時半、部屋を出る。ビュッフェの夕食を頼んでいた。
寿司に天ぷらに鉄板ステーキとその場でつくってくれる。
飲み放題にして、本当は1時間半分のところを2時間半も飲み続けてほぼ最後の客となった。
香川の酒蔵の「金陵」と小豆島の「森」を熱燗で何杯も飲んだ。
 
風呂にまた大浴場に行って、「IPPONグランプリ」を見る。
バカリズムは決勝に進めず。いつのまにか大悟が優勝していた。
終わってもう一度風呂へ。誰もいない。貸切の露天風呂に入る。
島のほとんどで明かりが消えていて真っ暗な海に囲まれている。
昼に立ち寄ったセブンイレブン青森県田子町のホップを使った缶ビールが。
尾崎放哉の句集を少し読んで寝た。