年も明けてだいぶたちましたが、昨年発売された本の中から3冊選んでみる。
新刊で話題の本もなかなか買わないし、買っても積読行きで読むのは数年後。
そんな中、出てすぐ読んだ本のいくつか。
1)ライムスター宇多丸など『ブラスト公論〜誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』(増補文庫本)
元々はヒップホップの雑誌『blast』での連載。
5人のメンバーがその時々の話題のネタをゆるゆると斬る。
「打ちに行く」「フックアップ」「3枚のカード」など使えるネタがたくさんあった。
連載は一度終了したものの、同窓会的に定期的に集まって近況を報告し合うというのがいい。
若かったメンバーも40代を超え、家庭を持ち、社会的地位も上がって、で、どうよ? という。
2)若林恵『さよなら未来――エディターズ・クロニクル 2010-2017』
『WIRED』の編集長だった方が自ら書いた記事の集大成。
この世界をどう見るか、どういう視点で見るか、何かと勉強になった。
個々のテーマでも、例えばブロックチェーンって結局何なのかとか、IT業界の人が解説するより腹に落ちた。
硬軟緩急自在。プリンスのこととか音楽ネタがやっぱ面白く、
ブックオフで500円で投げ売りされていたCDを買って聞いてみて採点するという企画が一番面白かった。
3)コージー・ファニー・トウッティ『Art Sex Music』
ノイズ・インダストリアルミュージックの始祖のひとつとして今もレジェンド的存在の Throbbing Gristle そ
の紅一点、コージー・ファン・トゥッティによる『Art Sex Music』
ロック・ミュージシャンの自伝はレイ・デイヴィスやジョン・ライドンなどたくさん読んだけど、
後世に残すべき記録としてこれ、かなり重要かな。
70年代前半のイギリスのアングラなアートシーンのことが細かく記されている。
前身の COUM Transmissions がいかに結成され、活動したか、
それがどのように Throbbing Gristle へと進化したか、
解散後パートナーのクリス・カーターとどう生きていったかについては相当な文字数を要しているが、
肝心の Throbbing Gristle についてはほとんど何も書かれていない。
代表作『D.O.A.』『20 Jazz Funk Greats』について言及されるのは2・3度ぐらい。
どんなふうにレコーディングされたのか全くわからない。
それぐらい混沌とした辛い日々だったのか。
読むと、COUM Transmissions / Throbbing Gristle の屋台骨として
実際的な部分を担っていたのはコージー・ファン・トゥッティであって、
かつての恋人であり、煽情的なヴォーカル、フロントマンとして一人名声を集めていた
ジェネシス・P・オリッジがいかに人間のクズだったかということばかり。
かなり割引いて読んでも、実際そうだったんじゃないかと思う。
こういうやついるよなー、と。
自分は何もしない、他人を貶めるだけ。
なのに自分の評価を執拗に高めようとする寄生虫のような存在。
でも、バンドのスポークスマンだったから、外部のジャーナリストもリスナーも皆、
Throbbing Gristle はジェネシス・P・オリッジの才能で成り立っているバンドだと長いこと思い込まされてきた。
コージー・ファン・トゥッティはアート、音楽活動と並行してポルノ女優やストリッパーとしても活動していたので、
キッチュな添え物ぐらいに思われていた。
コージー・ファン・トゥッティは告発するのではなく、ただ淡々と当時の記録や日記を元に事実を積み重ねていく。
分かる人には分かっていて、イギリスにおけるパンクのゴッドマザーは
コージー・ファン・トゥッティであると再評価著しいのが救いか。
しかしそれもコージー・ファン・トゥッティから見た歴史に過ぎない。
…客観的な歴史というものは存在しない。どんな歴史も誰かの主観によるものでしかない。
あとはその中に含まれている嘘や妄想がどれほどのものかというだけ。
それでもこの人は信じられる、というものがこの本には確実に存在する、と思う。