なんとなく思い出したこと。
夏休み、冬休み、津軽半島の先にある母の実家を訪れて数日泊まる。
中学生のときだったか。
昼を食べたら2時間に1本のローカル線に乗って帰ることになっていた。
今は亡き叔父が何の気まぐれか「肉焼いて食べるか」という。
蔵に七輪があるから出してこいと言われて、探しに行く。
炭を入れて火をつけて網を乗せる。
肉はパックのものだったか。ごく普通のラム肉だったと思う。
山奥なのでスーパーはない。
週に何度かやってくる移動販売のトラックで買ったものか。
いや、そういう特別なものを運ぶ余裕はないだろうから、町に出たときに買ったものか。
脂が落ちてジュージュー音がする。
焼肉のタレはなくて塩胡椒をかけただけ。
おいしい、というほどでもないが、悪くはない。
それを二人向かい合って無言で食べる。
僕もしゃべらない方だが、叔父はもっとしゃべらない。
「それ焼けたから食え」とかそれぐらい。
母も妹もいたはずだが、他にも従兄弟たちがいたはずだが、
食べたのは、声をかけられたのは、僕だけ。
叔父は酒飲みだったが、このときは飲まなかったと思う。
腹いっぱい好きなだけ食べるというのではなく、そのパックがなくなったらおしまい。
淡々と食べているうちにすぐ終わりとなった。
そのうち時間が来て、電車に乗って帰った。
その叔父が亡くなったと聞いて思い出したのはあのときのことだった。
人間の記憶というものはよくわからない。
叔父にとってはただ単に甥っ子が目の前にいたから肉焼いて食わせるか
と考えた、ただそれだけのことだろう。
この辺りでは珍しいラム肉があるからと。
僕の方も特にスペシャルな出来事だとは思わなかった。
なのになぜか、事あるごとに思い出す。
あの時は楽しかったとかそういう意味付けもなく、記憶の中の風景として。
死後の世界があるとして、叔父と再会したらあの日のように
七輪で肉を焼いて食べるのだろう。
特に言葉を交わすでもなく、ただ黙々と。