主人公は幽霊船の中で目を覚ます。
鉛色の分厚く雲が重なり合った空。吹き荒れる嵐。
高い波がボロボロになった船に襲い掛かる。
骸骨になった船長が操舵室にいて、落ち着き払って船をどこかへと導いている。
朽ち果てた乗組員たちも無言で働き続ける。
与えられた部屋の中にいて、主人公は自分が死んでいることを知る。
しかしどのようにして死んだのか、なぜここにいるのか記憶を失っている。
わずかな持ち物を調べてもかつての自分を思い出すことはない。
他にも乗客たちがいるが、彼らもまたなぜここにいるのかわからない。
様々な年齢の、様々な理由で亡くなった者たち。
やがて船はある島に到着する。
この世のどこにも存在しない島。そこには幽霊しかいない。
主人公は、そうか、自分は死者の世界、
その入り口に連れてこられたのだ、ということを知る。
島はひとつではなく、無数に分かれていると教えてもらう。
それらを渡るには船か、あるいは今なら飛行機という手段もある。
島の中では自動車や鉄道も走っている。
どこでどのように過ごしてもよいと主人公は言われるが、
永遠に死後の世界から出られることはない。
その苦しみに耐えかねて生者の世界に生き返ることは可能だが、
人間とは限らない。虫や植物かもしれない。それでもよければ。
しかしそれを選ぶ人も大勢いる。
一方で何の気兼ねもなく死後の世界に暮らす者もいる。
主人公は道端に生えている草のひとつひとつが
かつては生の世界にいた植物だったのだということに気づく。
主人公は他の島を見てみたいと思う。
また、幽霊船は生者の世界と死者の世界のはざまに唯一近づけるということを知って、
興味を持つ。自分は幽霊船で働きたいと思うようになる。
見習い乗組員となって、船出の日を迎える。
港は深い霧で包まれている。
見送る者はいない。