風に飛んだもの

小型の台風並みに風の強い朝。
こんなことがあった。
 
ピンポーンと鳴って出ると、宅配便。
サインして段ボール箱を受け取って、最後に配送伝票を受け取ろうとしたら
ちょうどピューッと強い風が吹いて舞い上がり、どこかへ消えていく。
宅配便の方が探すと、隣の家の庭に落ちたという。
慌ててピンポーンと鳴らすに行くが、留守なのか出ない。
どうしますか、となる。
 
正直、この配送伝票をもらったところで別になんか嬉しいことはない。
しかし、我が家の名前の書かれた伝票がゴミとなって隣家にあるのだから
回収しないわけにはいかない。
塀を乗り越えて拾うかと足をかけるところまでして思いとどまった。
昭和の時代ならまだしも、やろうとしていることはれっきとした不法侵入だ。
このご時世後からどんな厄介ごとになるかわかったものではない。
地面に下りる。
 
宅配便の方がトラックからビニール傘を持ってきて
臨家との間にある塀の隙間から腕を延ばし、傘の先で紙を動かそうとする。
こちらは正面にある門の隙間から中を見て「もう少し奥」「もう少し左に」と指示する。
もちろん、うまくいかない。「そこそこ」となっても傘の先は紙をこするばかり。
途中交代して僕もやってみた。
それでもなんとか門の近くまで近づけて手を伸ばせばなんとか行けるか、
となったところでまたピューッと風が。
振出しに戻った。
 
表で騒いでいるのを聞きつけて妻がやってくる。
物置からデッキブラシを持ってきて、塀の上に立ってチョイチョイやったらすぐだった。
門の隙間から宅配便の方が拾い上げることができた。
もはや泥だらけ。
「これはこちらで処分します」
「いえいえ僕らで」
受取って玄関のゴミ箱にポイ。
ほんと、なにやってんだか……
僕ら3人が一生懸命になって拾い上げたものは一体何だったのだろう。