何をきっかけにその人の音楽を聞くかと言えば訃報ということもあるわけで。
ご冥福をお祈り申し上げます。
期せずして1990年、1991年の音楽ばかりを聞いていた一週間となった。
近藤等則・IMA 「BRAIN WAR」(日)
The Mock Turtles 「Turtle Soup」(英)
They Might Be Giants 「Flood」(米)
Madredeus 「Existir」(葡)
1990年代の初め、世界ではこういう音楽が鳴ってたんだな。
2020/10/26: www.amazon.co.jp
近藤等則・IMA 「BRAIN WAR」 \980
Madredeus 「Existir」 \100
2020/10/27: TowerRecords 光が丘店
近藤等則・IMA 「IMA LIVE SELECTION」 \2750
2020/10/27: tower.jp
The Mock Turtles 「Turtle Soup Expanded Edition」 (\2398)
※タワレコのポイントで
2020/10/28: www.amazon.co.jp
They Might Be Giants 「A User's Guide To They Might Be Giants」 \500
2020/10/28: ヤフオク!
近藤等則・IMA 「GOD・ZILLA FUNK」 \1500
2020/10/30: DiskUnion 御茶ノ水駅前店
Etron Fou Leloublan 「A Prague」 \1300
2020/10/30: DiskUnion 新宿中古館
赤い公園 「熱唱サマー 初回限定盤」 \2250
2020/10/30: www.amazon.co.jp
Madredeus 「o espirito da paz」 \2
2020/10/30: diskunion.net
Queen 「A Kind of Magic Limited Edition」 \4250
Tower of Power 「Tower of Power」 \1950
2020/10/31: www.amazon.co.jp
Ferdinand et les Diplomates 「E-Pop」 \300
2020/11/01: www.amazon.co.jp
Happy Mondays 「Bummed Collector's Edition」 \4990
近藤等則・IMA 「BRAIN WAR」
先日、ミュージシャンの訃報が続いた。
もっと恥ずかしいことに僕もまた聞かなきゃ、入手しなきゃと慌ててしまった。
先週、数日経ってから amazon や DiskUnion で中古を探すと
話題の作品はどれも在庫なしかプレミアがついていた。
赤い公園の最新作「THE PARK」の初回限定盤は僕も試しに入札してみたが、
ほんと我ながら浅ましい。
多くはそのライヴを体験したときのことだった。圧倒される存在感、眼差しがあったと。
この「BRAIN WAR」は1991年の作品で、初めて聞いた印象としては
ああ、この人は録音よりも断然ステージの方が輝くだろうなと。
ハードボイルドな音。硬質な、メタリックな音。
高性能なロボット、というか未来から潜入してきたレプリカントの演奏するファンクロックというか。
その上でトランペットを縦横無尽に吹きまくって、時折ヴォーカルも披露する。
気迫があって気骨があるが、時代を作り乗り越えようとする意志が肩に力を入れすぎて
逆にその音を時代の中に置き去りにしてしまったような気がした。
これまで出会うことがなかった音楽というものはそれなりに理由があって
自分にとって縁がないからなんだなと思った。
近藤等則・IMA 「IMA LIVE SELECTION」
その後、タワレコでダメもとで取り寄せてみた「IMA LIVE SELECTION」が入荷したと連絡が。
同じく1991年の音。やはりライヴのこちらの方がピンときますね。
漲ってるけど自然体で、かっこつけないかっこよさというか。
とにかく走りまくってる。トップアスリートの全力疾走のよう。
バブルの残り香で生きてたあの時代、最もハードな音のひとつではないか。
一言で言うなら侍、かな。
5曲目まではクラブチッタで。6・7曲目は不明な場所での録音。
80年代のじゃがたらや Vibrastone のライヴアルバムを思い出した。
赤い公園 「熱唱サマー 初回限定盤」
一聴して、なんて素晴らしいバンドなんだろうと。
そして、なんで僕は知らなかったんだろうと。
7・8年前に Rockin'on Japan を買わなくなったからだろうか。
運よく DiskUnion や amazon で在庫がなくなってしまう前に以前のアルバム
3rd「純情ランドセル」4th「熱唱サマー」の初回盤をそれぞれ入手することができた。
アルバムを通して聴くよりも前に特典の DVD を見てみた。
どちらもビデオクリップが3曲と「情熱公園」と題したスタジオでのアルバム製作やPV撮影といった
ドキュメンタリーで1時間という内容。
興味深かったのは「熱唱サマー」の方で、
その「情熱公園」の冒頭にてヴォーカル佐藤千秋が脱退しましたとあり、
これまでに撮りためた映像を振り返る。ライヴやオフショット。
あーこの子が辞めるのか。でも、その隣にいるこの子は数年後に死んでしまうのか。
そう思いながら見ていると複雑な気持ちになる。
亡くなったのはギターの津野米咲。
高校の同級生だったヴォーカル、ベース、ドラムの3人にとっては一学年上なのだという。
バンドに入ったのも最後。ほんの少しだけ関係がよじれている。
彼女たちはどこにでもいる普通のかわいい、ノリのいい女の子たちで、彼女もまたそこにいる。
楽曲をほぼ一人で書いているからバンドの中心人物であり、彼女を中心に物事が動いていく。
なのに彼女はそこにいるようでいて他の場所にもいるようであり、
そこにはいないし、他のどの場所にもいない。一人だけ隅っこで煙草を吸っている。
全力でレコーディングと向き合って、ライヴも行って、だけどいつもどこか心あらずのような。
赤い公園はこれからも続いていくのかな。これからのことがとても気になります。
ちなみに1曲目の”カメレオン”の奇矯なサックスの繰り返しは
ドイツのグループ、faust の1972年のアヴァンポップの名曲
”It's A Rainy Day, Sunshine Girl”を高速でやってるのかと思った。
ダダダダダダダダダダダダダダダデと同じ音を繰り返して最後半音(たぶん)上がる。
津野米咲の聞いていた音楽はその辺りも視野に入ってたんじゃないかな。
The Mock Turtles 「Turtle Soup Expanded Edition」
21世紀以後の静かなブームとして、過去の名盤に対して
これまで未発表ないしは入手困難だったスタジオやライヴの音源を足して2枚組とし、
Deluxe Edition や Expanded Edition として再発するというものがある。
僕もここ数年その手のばかり買っている。
入手するのにかなり時間がかかることになる。場合によってはプレミアもついている。
先月は Faith No More「The Real Thing」「Angel Dust」を。
昨年は Everything But The Girl の全アルバムを買い揃えるのに苦労した。
いくつかは国内で全然見当たらず、送料がバカ高いのを承知でセカイモンでオーダーした。
そもそもこの Deluxe Edition を知ったのは
昨年出た藤原ヒロシのディスクガイド『MUSIC 100+20』で、
いろんなアーティストの Deluxe Edition を取り上げていた。
(残念ながら今、本の山の中から探すが見つからず……)
今、探してるのは Happy Mondays「Bummed」「Pills ~」リマスターされてるんですよね。
で、本題の The Mock Turtles へ。
The Chemeleons のライヴアルバムをたくさん出してた
イギリスのインディーレーベル「imaginary records」からの1枚目のアルバム。
discogs を参照すると、収録曲の半分ぐらいはそれまでに発表されたシングルやEPからで、
彼らにとっての早すぎるベスト盤みたいなものなんだろうな。
冒頭の躍動感ある”Kathy Come Home”からラストの”Wicker Man”まで
キラキラとした、だけどお花畑を歩く亀のようにどこかもったりとしたギターロック。
途中、カルトなホラー映画「ウィッカーマン」の曲”The Willow Song”をカバーという変化球も。
(ちなみにこの映画は後にニコラス・ケイジ主演でリメイクされた)
彼らの中では有名な曲なので聞いたことのある人もいるのでは。
隠れた名盤だと思うんだけど、どうだろう。
1990年、マッドチェスターの時代。
だいぶ前に買った国内盤の解説を読み返してみると
The Stone Rose の1枚目には穴埋めの曲があったけど僕らのアルバムにはそれはない、
とビッグマウスを。(「Elizabeth My Dear」のことか)
でもその後1枚アルバムを出して解散してしまった。
Madredeus 「Existir」
先週の金曜、パルコの地下1Fに移転した吉祥寺DiskUnionのプログレ棚を見ていたら
2枚組のライヴアルバム「Lisboa」を見つけた。国内盤、帯付きで680円。
マドレデウスって一頃よくその名前を見かけたもので。この機会に聞いてみるかと。
ポルトガルのトラディショナルな音楽をベースにした歌と演奏。
エンヤのような癒し系のイメージがあった。
その真ん中に1人の女性が経っているというモノクロの写真をあしらったジャケットだった。
いせやに行って焼き鳥を食べ、生ビールを飲みながら中川五郎による解説を読むと
その年は「日本ポルトガル友好450周年、天草学林開設400周年」だった。
家に帰ってすぐそのライヴアルバムをミニコンポに入れて、
澄んだ、美しいけどどこか悲しみを秘めた声と演奏に浸った。郷愁とでも言うか。
もう少しこの頃の彼らの音楽を聞いてみようと1990年に発表されたセカンドアルバムを取り寄せてみた。
やはり浜辺でそれぞれの楽器を手に撮影されたジャケット。
だけどこちらはカラーで、砂の黄色、波の白が淡い。
邦題は「海と旋律」帯には「世界一ことばの美しい国」とあった。
砂浜ってなんでアコーディオンの音が似あうのか、とふと気づく。
(しかしなんでプログレコーナーだったんだろ。
キーボードとクラシカルな楽器という編成ゆえか。
They Might Be Giants 「A User's Guide To They Might Be Giants」
人間誰しも思い出すたびに恥ずかしくなって、己のかっこ悪さに死にたくなるようなことがある。
1994年の8月、19歳だった僕はジャンケンに勝って大学の短期語学留学生に選ばれてモスクワへ。
老若男女いろんな人がいた語学研修ツアーに交じってひと夏を過ごした。
その時出会った1コ上の女の人と一度だけ二人きりで話すことがあった。
何をきっかけとしたのか普段聞いてる音楽のことになって彼女は
「変てこなんだけど好きなバンドがあるの。知ってる? They Might Be Giants って」
知ってるも何も! 「Flood」っていいアルバムだよねと盛り上がった。
「イスタンブールはコンスタンチノープルじゃない」って歌があって、とか。
(今思うと Residents もカバーしていた。アルバム「Duck Stab」の1曲目)
関西の、きれいな人だった。
帰国して大学生活に戻り、年が明けて1月。阪神淡路大震災。
一緒のツアーだった方から連絡があって、○○さんの自宅が倒壊して大変なことになったと。
私はカンパをするけどどうする、となって僕はお金がないからと断ってしまった。
ないわけがない。1000円でも2000円でも送ればよかった。
でもそんなはした金しか送れない、ということにその時は恥ずかしさを覚えた。
代わりに「Flood」をダビングしたテープを封筒に入れて送った。
その時は気の利いたことをしたように思った……
聞いたかどうかわからない。それ以前に届いたのかどうかわからない。
何にしてもその後彼女から電話や手紙が来ることはなかった。
They Might Be Giants 自身には何の罪もない。
ふときき返したくなって、探したら amazon に神保町のJANIS2が500円で出品していた。
ベストアルバム。70分近くで28曲。1分や2分の短い曲が畳みかけるように
クッキーのアソート缶のように詰め込まれている。
1枚目と2枚目から3曲、3枚目、1990年の「Flood」から5曲、
4枚目の「Apollo 18」から4曲、その後のアルバムからは1曲か2曲ずつ。
(子供向けにつくられたアルバム「No!」だけは3曲)
やっぱ彼らにとっても「Flood」なんだな。
ジョン・フランズバーグとジョン・リンネル、二人のジョンによるデュオ。
ギターにアコーディオンに大太鼓といろんな楽器をとっかえひっかえして
フォークにロックにマーチにポルカ。
いろんなジャンルがミックスされたユーモラスな、しかし知的でちょっとシニカルな歌を演奏する。
今もやってるのかな、活動初期にはダイヤルサービスでその電話番号にかけると
彼らの短い曲が週替わりで聴けるというのが話題になった。
おもちゃ箱をひっくりかえしたような、と書きかけて先日もこのフレーズを使ったなと。
Ornette Coleman「Dancing In Your Head」が西のおもちゃ箱なら
東のおもちゃ箱はこのベストアルバムか。
80年代前半からニューヨークを拠点として活動を始め、今もアルバムを出し続けている。
こんなに息の長い存在になるとは思わなかった。
Etron Fou Leloublan 「A Prague」
70年代半ばから80年代半ばにかけて活動。
RIO (Rock in Opposition) というムーブメントのフランス代表的な位置づけか。
アンダーグラウンドなロックミュージックのネットワークというか、連帯。
『オール・アバウト・チェンバー・ロック&アヴァンギャルド・ミュージック』
というガイドブックが相当詳しい。
この本で初めて僕はフランスの Heldon や Etron Fou Leloublan を、
これらのグループは広い意味でのジャンルは”プログレ”ってことになるんだろうけど、
イギリス、ドイツ、イタリア中心で Yes や King Crimson に代表されるような
狭い意味での”プログレ”のガイドブックではなかなか見かけず、扱いは小さかった。
(もうひとつ役立ったのは、”200CD”シリーズの『プログレッシヴ・ロック』)
どの演奏も緊張感が高く、飽きない。
活動前期はサックス、ベース、ドラムという編成だったのが、
後期はベース、ドラムは変わらずでサックスの代わりにオルガンが加わる。
一貫して楽器の少なさを逆手に取ったようなフリーフォームな音を身上とした。
デコボコグリグリしたリズムパターンが彫像のように屹立する空間を
オルガンの音が埋めていくような。
ロックでもジャズでも”プログレ”でもないけど、
キャバレーのようでもありサーカスのようでもあり見世物小屋のようでもある。
思えばフランスから出てくる音楽は
シャンソンとか伝統的なものを除くと異形のものばかり。
○○ではないけど、××のようであるという言い方しかできないもの。
それにしても冷戦の続いていた時代のプラハでいわゆる西側のバンドがライヴか。
できないってことはなくて、手続きや制約がめんどくさいのか。
あとは政治というものへのスタンスに寄るのか。
80年代だと UB40 や Shakespear's Sister も旧ソ連で演奏した音源がある。
RIO の精神で言えば、ロックに、音楽に国境はない。
その実践のため仲間に会いに行ったのだろう。
Ferdinand et les Diplomates 「E-Pop」
上述の Etron Fou Leloublan のベーシスト、フェルディナン・リシャールが
ドラム、DJのトリオで発表したアルバム。2007年。
DJがメンバーにいるということで
”プログレ meets ヒップホップ”みたいなところを期待してしまうけど、
フェルディナン・リシャールのアクが強いのかそこまで引っ張られることはない。
当時最新型の”プログレ”的な音、その方向性のひとつではあると思うが、
元Soft Machine のヒュー・ホッパーが90年代にアメリカの若いミュージシャンたちと演奏した
Caveman Hughscore のような化学変化、突然変異はそこにない。
ジャケットがフランスのバンドデシネっぽいSFチックな背景に
日本のアニメっぽい女の子を描いていて
どこかで見た絵だなあと思って購入後クレジットを見てみたら
とてもかわいらしい。
スピード・グルー&シンキ 「イヴ 前夜」
今から5年前か。手術で入院したときにすることがなく毎日ベッドの中で
音楽を聞きながら本を読んでいた。
そのときに読んだ一冊が、元The Teardrop Explodes のジュリアン・コープによる
大著『ジャップロック サンプラー』
60年代から70年代にかけての日本のアンダーグラウンドなロックバンドの流れを追っていく。
日本人にも書けなかった金字塔的名著だと僕は思う。
タージマハール旅行団らと並んで一章を割いているのがスピード・グルー&シンキ。
こんなかっこいいバンドのこと知らなかったのかと退院してすぐ都内の DiskUnion を探し回った。
元パワー・ハウスのギタリスト、陳信輝と
元ザ・ゴールデン・カップスのベース、加部正義がフード・ブレインで出会って、
それがすぐ空中分解したのちにアメリカ人のドラマー、ジョーイ・スミスを加えて
結成したのがスピード・グルー&シンキ。
「イヴ 前夜」はその最初のアルバムで1971年の作品。
ジャケットが戦前の横浜異人街のミッション系の学校に通ってたような
女の子3人の写真というところが舐め腐っている。
ギターリフ中心のブルースロックでジョーイ・スミスのヴォーカルはそこまでうまくはない。
全く新しい音でもない。
でも、ずるずるズブズブと引き込まれてしまうんですよね。
スピードとは要するに覚せい剤のこと。グルーは接着剤でつまりシンナー。
まともじゃない。不良の音というよりもはぐれ者の音。
3人とも混血だったとどこかで読んだように思う。
先日「若松孝二傑作選」のシリーズで聞いたフード・ブレインの粗削りな音にやられて
またスピード・グルー&シンキが聞きたくなった。
調べてみると2017年にリマスターされているというので、より刺さる音で聞きたいと買い直し。
バンドはもう一枚、虎のジャケットの2枚目を出して解散。
加部正義(ルイズルイス加部)は先日訃報が伝えられました。
Char と Pink Cloud をやってましたね。