先週買ったCD #4:2020/11/02-11/08

2020/11/02: www.hmv.co.jp
(Soundtracks) 「若松孝二傑作選 毛の生えた拳銃 大和屋竺」 (\2429)
Tower of Power 「Soul Vaccination Tower of Power Live」 (\770)
HMVのポイントで
 
2020/11/04: diskunion.net
(V.A.) 「Raras Partituras 2 Piano」 \1200
 
2020/11/04: www.amazon.co.jp
芸能山城組 「恐山/銅之剣舞」 \1093
 
2020/11/05: www.amazon.co.jp
Enigma 「The Greatest Hits」 \108
 
2020/11/06: diskunion.net
(V.A.) 「バリ/ビノーのスマル・プグリンガン」 \1100
 
匂い立つような男の色気を宿した声、というとブラジルのカエターノ・ヴェローゾかな。
決して下品なやらしさはなく、むしろ知的であって
しっとりとした、だけど余計な水分のない、さらっとした憂いのある声。
60年代後半から活動、若い世代の仲間たちとトロピカリア運動を始めるも
ブラジルの政治が不安定な時期にはイギリスに亡命。
しかしコンスタントに作品を発表し続け、
80年代後半は元DNAのブラジル音楽の陰のフィクサーアート・リンゼイがプロデュース、
90年代に入ってからは息子モレーノ・ヴェローゾら若い世代とロックなアルバムをつくったり、
Talking Headsデヴィッド・バーンとコンサートで共演したりと
今もブラジルの音楽シーンを牽引し続けている。
4年前に出た盟友ジルベルト・ジルとのライヴアルバムは
これまでのキャリアの集大成かつ新たな出発点となってしみじみよかったなぁ。
ペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』のサントラ、ミックステープを
先日聞いてまたその音楽に触れたくなり、
ディエゴ・リベラの壁画をジャケットにあしらった1995年のライヴアルバムを買った。
邦題は「”生きな男”ライブ」
オーケストラをバックにしてその親密な声が囁きかけてきた。男の色気を存分に浴びる。
もっと聞きたくなって過去のカタログをあれこれ見ているうちに1986年のセルフタイトル、
アコースティックギター弾き語りのアルバムがリマスターされていると知って買い直した。
……そのつもりが、曲目を見ると思っていたのと違う。
僕が昨年買って持っていたのはよく見ると「Caetano Canta」というタイトル。
どちらもマイケル・ジャクソンの「Billy Jean」と
ビートルズの「Elenoa Riby」のメドレーが入っていたので、勘違いしてしまった。
どうも「Caetano Canta」は後の編集盤のようで。
(僕は薄っぺらい廉価盤を300円ぐらいで amazon で購入したが、
 今見たら中古で \156,564という値がついていた。びっくり)
このメドレー、最初に聞いたのは床屋のラジオ。
土曜の朝、ゴンチチの二人による『世界の快適音楽セレクション』の20周年記念特集にて
ゲストの音楽評論家、渡辺亨が選んだ究極の一曲がこれだった。
この世ならぬ美しさ。床屋の椅子に寝ていたので iPhone を操作できないのがもどかしい。
終わって出た途端すぐ amazon でオーダーした。それが「Caetano Canta」だった。
今回届いた「Caetano Veloso」で改めてそのメドレーを聞く。
他の曲も最上のビロードのように滑らかで美しい。
もし僕が死刑囚で明日死刑が執行されるのだとしたら、最後に聞くのはこのアルバムかもしれない。
 
(Soundtracks) 「若松孝二傑作選 毛の生えた拳銃 大和屋竺
大和屋竺というと1960年代後半から1970年代前半、
日本のアンダーグラウンドシーンが最も活気のあった頃に若松孝二の周辺にいた伝説の人。
脚本家としては様々な変名で鈴木清順『殺しの烙印』や
藤田敏八八月の濡れた砂』など多くの作品を手掛け、
若松孝二監督作品でも”出口出”名義で『処女ゲバゲバ』など。
初期の『ルパン三世』や『ガンバの冒険』も何話か担当しているんですよね。
『毛の生えた拳銃』はその大和屋竺が監督した作品のひとつ。残念ながら未見。
ひとつ前の『荒野のダッチワイフ』は会社の先輩に薦められてビデオを借りてきた見た。
独特の間合いというか、隙間、いや、ポッカリと開いた大きな穴の中にあるような。
でもスカスカというのではなく虚無というのでもない。
別の次元につながる空洞とでも言うか。位相の歪み。
その『荒野のダッチワイフ』は山下洋輔カルテットが担当していて
(1969年の「ミナのセカンド・テーマ」で使われた曲が一部聞けるようだ)
『毛の生えた拳銃』も引き続きとなるはずが、
解説を開き、音楽監修だった相倉久人氏へのインタビューを読むと
山下洋輔が病気となり、ベースが参加せず、という状態で
テナー・サックスとドラムだけで録音したようだ。
そこに芸大生のピアニストが素人だけど参加したと。
なので基本、テナーとドラムだけのフリー・ジャズ
ところどころチェンバロのようなピアノが加わる。
このチェンバロ単体の典雅な曲もあって、二極分化した不思議な感じ。
まあでもよほどの大和屋竺山下洋輔のマニア向けかな。
映画も大和屋竺らしい、分裂した内容なのではないか。
 
芸能山城組 「恐山/銅之剣舞
昨年夏、妻の後輩ちゃんからこんなイベントがあるので行きませんかとお誘いが。
芸能山城組が新宿三井ビルの広場でケチャを踊る。
毎年欠かさずここで披露して44回目になるという。
芸能山城組の名前はでどこかでちょこちょこと目にはしていたものの
覚えていたのは劇場版『AKIRA』の音楽を担当してたな、ぐらいで。
ねぶた囃子を取り入れた音楽は青森に育った中学生にしてみれば、
なんでもっとかっこいい音楽にしないのだろうと気恥ずかしかった。
この夜のケチャまつりはバナナの叩き売りといった大道芸に始まり、
日が暮れてからはガムランがずらっと並んで踊りても大勢現れて
炎のように、大波のように揺れ動いた。素晴らしいイベントだった。
残念ながら今年は中止になってしまったが、また見たいと思っていた。
その芸能山城組がアルバムを出していたことを知る。
アフリカやシルクロードなど世界各地の音楽をモチーフにしたもののようだ。
もちろん『AKIRA』のサントラもある。
その中に、『恐山』というのがあった。
1976年、彼らにとって最初のアルバムとなる。後にCD化もされたが今は入手困難なようだ。
それが最近になってイギリスのレーベルから再発されていて、そちらを取り寄せてみた。
”Lemon Records”というところからで
”Issued under license”と記載があるので盤起こしのブートレグではないだろう。
驚いたのは、『恐山』の作曲が渡辺宙明
ゴレンジャーやジャッカー電撃隊などの戦隊もの
ギャバンシャリバンなどの宇宙刑事シリーズの主題歌を作曲している。
今調べたらキカイダーマジンガーZもそうだった。
そして編曲には元ザ・スパイダース大野克夫井上堯之の名が!
大野克夫が作曲して、井上堯之バンドで演奏という一連の「太陽にほえろ!」で有名なコンビですね。
というか、ベース:佐々木隆典、ドラム:鈴木二郎、ギター:速水清司、井上堯之、キーボード:大野克夫って
ピンと来て見てみたらこの時期の井上堯之バンドのメンバーじゃないか。
こういう仕事もしてたんだなー。
”恐山”は女性の叫び声に始まって、唸り声に金切声。とてもおどろおどろしい。
恐山にて架空の、幻の儀式を執り行うというような。寺山修司もどこかで一枚噛んでるんじゃないか。
でもベースにあるのはイギリスのブルースロックだと思う。
ギターとキーボードの空間の作り方が Pink Floyd っぽい。
20分で1曲。クライマックスで阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
最後のパートの静謐さは賽の河原だろうか。
LPでいうところのB面もまた長尺の1曲。”銅之剣舞
こちらはまさにケチャ。厳かな男性コーラスが重なる。
昨年のイベントを聞いた身としては嬉しい。
後半、日本語で筋書きが語られるところが芸能山城組ならではか。
唯一無二の音楽を記録したものとして価値が高いと思う。
 
(V.A.) 「Raras Partituras 2 Piano」
タンゴやフォルクローレなどアルゼンチンの良質な音楽を紹介する
「Raras Partituras」というシリーズがある。
アルゼンチンの国会図書館に眠っていたテープを発掘しているのだとか。
フアナ・モリーナやフロレンシア・ルイズといったアルゼンチン音響派
カルロス・アギーレに代表される現代的なフォルクローレ
アストル・ピアソラに始まってディエゴ・スキッシら若い世代につながるタンゴ。
その辺りを聞き漁っているうちに出会って、何枚か購入した。
6枚目の、バンドネオン奏者レオポルド・フェデリコによるタンゴは今もよく聞く。
このCDはシリーズの2作目で、
6人のピアノ奏者が共演した2006年ブエノスアイレスでのコンサートを抜粋したもの。
晩年のピアソラセクステットにいたジェナルド・ガンディーニ
ジャズ畑のエルネスト・ホドス、
タンゴの若い世代の一人ニコラス・ゲルシュベル、
全然知らなかったけどカケハシ・レコードの商品解説によれば
アルゼンチン・プログレ出身でピアノに限らず様々な楽器を演奏するリト・ヴィターレ
そして、ディエゴ・スキッシ、カルロス・アギーレ。
ジェナルド・ガンディーニの弾くフリアン・アギーレや
ニコラス・ゲルシュベルの弾くエドゥアルド・ロビーラのように
アルゼンチンの作曲家の作品を集めたものなのだろう。
小品ばかりでもっと聞きたくなりますね。
日本でも人気の高いカルロス・アギーレに至っては2分の曲1曲のみ。
この1曲のために購入したというファンもいるんだろうなあ。
鍵盤のひとつひとつ、音のひとつひとつにアルゼンチン音楽の100年以上の歴史が込められている。
しかし重たくはなく、サラサラと聞くことができる。
 
(V.A.) 「バリ/ビノーのスマル・プグリンガン」
”ワールド・ミュージック”というジャンルがある。
西欧諸国のロックやジャズやクラシック、あるいはソウルやファンクに影響された
第三世界のポップ・ミュージック、といった位置づけだろうか。
いわゆる”民族音楽”そのものではない。
両者の間は近いようでいて遠い。
でもそれは演奏する側の問題ではなくて売る側の問題であるか。
僕が最初に”民族音楽”に興味を持ったのはいつかというと
十数年前、南米ペルーに旅行したときにケーナなどの伝統的な楽器と衣装で
フォルクローレを演奏するグループを聞いたときだったと思う。
本格的に聞き始めたのは数年前、
神保町のDiskUnionでたまたま暇つぶしがてら棚を眺めていた時に
キングレコードが2008年に出した”The World Root Music Library”のシリーズのひとつ、
No.10 「中部ジャワの王宮ガムラン」を目にしたとき、
赤と白を基調としたスタイリッシュなデザインがきれいだなとただそれだけの理由で買った。
コンプリートしてみようとして150枚出ているうちの約半分、
アジア特にバリ島、ジャワを中心に70枚ほどこれまでに入手した。
HMV のサイトでオーダーするとまだ半分ぐらいはメーカーに在庫があるようだ。
でもそれも今後少しずつ在庫切れになっていくだろう。
この手のものは意外と地方のCD屋に店頭在庫が眠っているものなんですよね。
京都の店にネットで問い合わせたら入手できたものもありました。
バリ島、ジャワとなるともちろん、ガムラン
青銅製の鍵盤打楽器を数台、時には何十台と並べて一斉に演奏する。
うねるようなリズムのパターンは無機的なものと有機的なものとが複雑に絡み合って
この世で最も美しい音楽、いつまでも永遠に聞くことのできる音楽だと思う。
ジャワの方が王宮向けのもので、室内楽的でミニマルな音、幽玄な音。まどろみのための音。
(上記シリーズだとNo.40[中部ジャワマンクヌガラン王宮のガムラン
 No.122「ソロ国営放送局のガムラン奏者」がおすすめ
バリ島のはケチャで使われるため大勢で演奏して迫力がある。豪華絢爛なほどいい。
(同じくNo.75「バリの巨大ガムラン / バトゥール寺院」と
 No.77「輝きのバリ ガムラン / グヌン ジャティ」がおすすめ
今回の「バリ/ビノーのスマル・プグリンガン」が入手に一番苦労したもので、
メーカー在庫切れで amazon では今、1万近く。
それが2年近く探し続けて、DiskUnionで1,100円でひょっこり出てきたのをすかさずキャッチ。
聞いてみるとこれが一番幽玄な、音の桃源郷のだろうかと思いきや、意外とガチだった。
スピード感があってグイグイ迫ってくる。
素人の僕はバリ島のですか? と寝言を言ってしまいそう。
2枚目に入ると塩辛く豪胆な男性ヴォーカルが演奏を引っ張っていく。
ガムランのイメージがちょっと変わった。
解説はガムランを習得するために現地に留学された皆川厚一氏。
(他にアジアで入手が難しいのは、No.69「ベトナムのブルース / キム・シン」か。
 ゴンチチも絶賛したベトナムのギタリスト)