屋号のない店

ここ数年来、「町中華」がブーム。
本屋に行けば都内にある町中華のムックやガイド本が2・3冊は並んでいる。
最たるものとして僕も毎週楽しみに見ているBS-TBSの『町中華で飲ろうぜ』
不覚だった。学生時代から30代まで
特に興味を持つことなく足を踏み入れることもほとんどなかった。
荻窪に住んでいた時、毎朝毎晩店の前を通った「啓ちゃん」は
町中華で飲ろうぜ』でも取り上げられた、木耳玉子の名店とされる。
恥ずかしながら引っ越して町を出て行った後に、番組を見て慌てて食べに行った。
 
その町中華の次にこれが流行るんじゃないかと思っているのが、
「屋号のない店」
町の片隅によくあるじゃないですか。
年季の入った小屋を間借りして、あるいは屋台で、道端で売っている焼き鳥屋。
(一応言うと、肉屋の店頭で売っている焼き鳥ではなく)
おじいさんやおばあさんが黙々と焼いていて、愛想はないし、
都心の名だたる有名店よりもうまいということはないけど、
普段使いの焼鳥屋としてはなかなかおいしい。
1本70円とか80円で安いというのもいい。
 
住んでいる町で2軒知っている。
どちらもひっきりなしにお客さんが来る。
片方はスーパーの近くにあるので焼きあがった頃に取りに行く。
もう片方は一人だったり家族連れだったりで何組かいつも店の前で待っている。
営業してる日は辺り一面煙たくなってるけど、いつ休みなのかよくわからない。
開いたり開いてなかったりする。健康状態というのもあるのかもしれない。
 
焼き鳥屋ではなく、他の業態もある。例えばラーメン屋。
この辺りだと歩いて成増へと向かう途中に一軒ある。
ラーメンとは書かれていて、小さな古びた店の中にカウンターと厨房は見えるが、
いかんせん名前がわからないから食べログなどで検索できず、
それ以上のことがわからない。
ある意味敷居が高そうで、怖くてまだ一度も入ったことがない。
 
そう、このネット時代に、実際に店に入る以外に店の情報を得る手段がない。
ムックやガイドブックにも乗せるのが難しい。
地図で言うとこの辺り、中に入るとこんな感じの店という情報しか載せられない。
写真を撮るのもはばかられるような気がする。
でも、そんな店を知りたい、というところまで世の中のニーズは来てるんじゃないか。
 
妻に聞くと熊本市にもかつてそういう店があったという。
隠れ家的な小さなイタリアン。
名前がないので、仲間内では町の名前で代わりに呼んでいたと。
 
探して取材をするのは難しそう。
その町に詳しい人に直に聞くしかない。
もうひとつ難しいのは、住んでいる人たちからすればその店は自分たちのものであって
あまり知られたくないのではないかという。
遠くからわざわざ来るようなものではないし、それで混んでもやだし、
なおかつそれで思ってたほどおいしくなかったと書かれでもしたらムッとする。
そんな心理が働くと思う。
 
でもそういう店をあちこちの町でいくつも知っていて、頭の中だけで記憶している。
たまに利用する。店のおばあさん、おじいさんと買うときに気冊の挨拶を交わす。
そんな人が真の食通なんじゃないかと最近思う。