先週買ったCD #20:2021/02/22-2021/02/28

2020/02/22: www.amazon.co.jp
Jello Biafra with The Melvins 「Sieg Howdy!」 \722
 
2021/02/24: diskunion.net
The Birthday Party 「Hee Haw」 \880
 
2021/02/24: TowerReords 光ヶ丘店
Yo La Tengo 「I Can Hear The Heart Beating As One」 \3300
Yo La Tengo 「And Then Nothing Turned Inside Out」 \3300
銀杏BOYZ 「ねえみんな大好きだよ」 \3630
 
2021/02/24: VELVET MOON
Joao Gilberto 「Joao Gilberto en Mexico」 \4880
 
2021/02/24: www.amazon.co.jp
Mosalini / Agri Quintet 「Encuentro」 \1350
 
2021/02/25: www.hmv.co.jp
Urban Dance Squad 「Persona Non Grate」 ¥2488
 
2021/02/25: www.hmv.co.jp
Phoebe SnowPhoebe Snow」 (¥990)
HMVのポイントで
 
2021/02/26: tower.jp
夏木マリ 「13 Cahnsons」 \1980
Yo La Tengo 「ELECTR-O-PURA」 \2750
 
2021/02/27: diskiunion.net
The Lounge Lizards 「The Lounge Lizards」 \1140
 
2021/02/28: diskunion.net
Warzone 「Lower East Side」 \562
 
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Jello Biafra with The Melvins 「Sieg Howdy!」
 
12月に書いた
Jello Biafra with Nomeansno 「The Sky Is Falling And I Want My Mommy」
に引き続き、です。
1970年代サンフランシスコのパンクバンド、Dead Kennedys の元ヴォーカリスト
ジェロ・ビアフラはコラボ上手というか名伯楽というか、
NomeansNo とやったのがよかったので Melvins との2枚を取り寄せ、
Ministry とのユニット LARD の3枚は元々持っていたので聞き直し。
どれもよかった。ガチでかっこよかった。
多彩な楽曲はパンクとハードロックのいいとこ取りの大暴走。
 
後輩たちのバンドに先輩のヴォーカリストが入ってという足し算ではなく、
それぞれの魅力がぶつかりあって掛け算で新しい魅力となっている。
Melvins の重たい音はややもするとカラフルさを失う。
Nomeansno のトリッキーな音は変拍子の先に何もなくなる。
そこにジェロ・ビアフラの上ずった、見るからに(聞くからに?)いたずら好きな声が
バンドをひっかき回して音楽性の引き出しをどんどん開けていく。
ビアフラ自身が曲作りに関わっているというのも大きいのだろう。
 
Ministry が最も劇的に変化しただろうか。
UKダブのマッド・プロフェッサー、エイドリアン・シャーウッドが手掛けた1作目「Twitch」
泣きのメタルギターを導入した2作目「The Land of Rape and Honey」と
評価の高い作品も個人的にはピンとこなかった。
Einsturzende Neubauten や Throbbing Gristle の切り拓いた
暗くてじめじめとした80年代のインダストリアル・ミュージックを
からっとしてフェス向けの90年代型オルタナティヴ・ロックにつないで
金になるものにした功績はあまりにも大きい。
だけどどこか考えすぎなところがあった。
それをジェロ・ビアフラが「お前らもっとバカになれよ」と言ったのかどうかはわからないが、
LARD では吹っ切れた爽快なジャンクサウンドを聞くことができる。
 
この3組の中では Melvins が最も純粋なハードロック寄りか。
街の喧嘩自慢たちがこん棒で殴りあって皆で鼻血ブーとなっている。
この組み合わせの1作目、「Never Breathe What You Can't See」が
眉間に皺を寄せてがっぷり四つに組み合っているのだとしたら
今回の2作目は 「Sieg Howdy!」 はお互いの手の内がわかって
その上でノーガードで殴り合っているかのよう。
Dead Kennedys 時代の代表曲”California Uber Alles”の再録、
ミニストリーのアル・ジュールセンのリミックスと半数が変化球。
なんでもあり感が5割増し。
 
Melvins との3作目、出ないものか。
ジェロ・ビアフラのコラボシリーズ、D.O.A. はまだ聞いてないし、
サンフランシスコのバンドと組んだ「Tumor Circus」も気になる。
ここに来てジェロ・ビアフラが僕の中で台風の目。
 
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Joao Gilberto 「Joao Gilberto en Mexico」
 
BRUTUSの最新号『音楽と酒。響く、聴く、語る、レコードとバーの話。』
買って読んでみたら案の定、欲しくなったものばかり。危険。
リスニングバー、レコードを聴かせるバーというのは海外ではあまり見かけないのだという。
『MARTHA』『DUG』『ブラックホーク』『レッドシューズ』『カフェ・アプレミディ』を筆頭に
出不精の僕は行ったことないけど、人生のどこかで聞いたことのある有名な店ばかり 。
 
『全国23軒の名店主に聞く 店の個性が形作る5枚のレコードとその理由』
というコーナーがあって
01 2021年2月1日最初にかけたい一枚は?
02 店に絶対になければならないお店を象徴する一枚は?
07 長年探し求めているあこがれの一枚は?
といった7つの質問から、5枚を選んでいる。
挙げられたレコードのうち、CDでだけど、
ロックはほぼ全部、中南米系とジャズも半分ぐらいは持っていたか。
ほっとした。でもソウルはまだ全然だった。
 
山下達郎の初期のライヴアルバム『It's A Poppin' Time』は別々の質問で2軒の店が。
原田知世『恋愛小説3~You&Me』は2軒の店が
04 最近手に入れた一枚は?
という質問で挙げていた。
そういうのを見ると欲しくなる。でもギリギリこらえる。
 
ピーター・バラカンの選ぶ32枚など他のページで取り上げられたものも含め、
どうにも我慢できなくなったものを何枚かオーダーした。
夏木マリ 「13 Chansons」
Warzone 「Lower East Side」
Joao Gilberto 「Joao Gilberto en Mexico」
 
このうち、ジョアン・ジルベルトは恥ずかしながら知らなかったアルバム。
初期から晩年まで結構持っていたつもりなのに。つもりに過ぎなかった。
1970年前後、ジョアン・ジルベルトはメキシコで活動していたという。
そういうことも知らなかった。
その1970年に録音された作品となる。
 
アナログ盤は超入手困難で、DiskUnion でも98,000円の価格が。
CDも amazon で在庫切れ。
それがとあるショップのサイトで4,880円。
これは買いだ! 掘り出し物だ! と即オーダー。
しかしその後冷静にあれこれ見ていたら、というかそのショップの解説文にて
「Ela E Carioca」とタイトルとジャケットを変えて再発されていると。
そちらで検索したら中古CDがいくらでもあった……
しかも国内盤がボンバ・レコードから出ていた。
HMV だと550円……
聞きたかったとは言え、オリジナル盤で所有したいというほどのマニアではない。
強引にキャンセルをお願いすることもできただろうけど、
こちらの不手際なので送料を加え5,000円越えを支払うことにする。
 
それが届く。
曲目ぐらいしか書かれていないので詳しいことはわからないが、
音は悪くなかった。
古いCDで音がモコモコと小さいんじゃないかと不安だったが、そんなことはなかった。
じゃあまあいいか。よかった。
ジョアン・ジルベルトがギターを奏でている写真をあしらった
ジャケットもメキシコっぽい、かっこいいものだし。
 
内容も申し分なし。
慎ましくもムーディーなバックが付くものの基本は
ジョアン・ジルベルトとギター、ただそれだけ。
乾いたボサノヴァを爪弾き、歌う。
ヴィニシウス・ヂ・モライスによる「彼女はカリオカ」
ジョアン・ドナートの「かえる」
ビートルズもカバーしていたスタンダード・ナンバー「べサメ・ムーチョ」など。
このかわいらしい枯れ具合、たまらんなぁ。
 
本当はジョアン・ジルベルトの来日公演を見に行くはずだった。
2008年の東京国際フォーラム。チケットも取っていた。
しかし、持病の腰痛が悪化して船旅が難しくなったと。
その当時で77歳。神様に会うことができず、今も残念に思う。
 
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The Lounge Lizards 「The Lounge Lizards」
 
10年ぐらい前にタワレコ限定でリマスター、SHM-CDで再発されたのを
ボヤボヤしているうちに買い逃し、例によって今頃中古で探すという。
オリジナルは1981年。彼らの1作目。
一期一会のメンツによるニューヨークのフェイクジャズ、パンクジャズの名盤。
プロデューサーはなんとテオ・マセロ。
マイルス・デイヴィスの一連の作品を手掛けた。
 
70年代末、サックスのジョン・ルーリー
その弟でピアノのエヴァン・ルーリーを中心に結成。
ジョン・ルーリーはニューヨークのインディー系映画・音楽の顔役の一人というか。
日本ではどちらかというと役者として有名か。
ジム・ジャームッシュの80年代の作品の常連でこの2作品はサントラも手掛けている。
マーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑』や
自身の監督・主演作品に『フィッシング・ウィズ・ジョン』というテレビ番組のシリーズがあって、
親交のあるトム・ウェイツジム・ジャームッシュデニス・ホッパーといったゲストと共に
釣りをしに行く。日本でも劇場公開された。
クールでスタイリッシュ、なのにとぼけたオフビート感があるというのは
ジャームッシュ監督に通じるものがあるかな。
難病により音楽活動は断念、2000年代以後は絵画に専念している。
10年前か、ワタリウム美術館でも個展が開催された。
90年代の初め、コム・デ・ギャルソンのファッションショーに出た時に
ハーモニカを拭きながらランウェイを歩いたのがかっこよかった
という記事をどこかで読んだことがある。
 
ギターのアート・リンゼイは当時、DNAで活動。
チューニングしない12弦ギターをコードを知らずにかきむしる。
音というものに対する感性が鋭すぎて、それでも緊張感ある演奏となる。
The Lounge Lizards は1作目のみ。
ジョン・ルーリーが首にしたとかしなかったとか。
その後は、Ambitious Lovers を経てソロへ。
ブラジル出身ということもあり、
大御所のプロデュースを務めるまでになる。
「beauty」といった坂本龍一のアルバムにも参加している。
 
ドラムのアントン・フィアは feelies などで活動したのち、
80年代は自身のバンド The Golden Palominos を率いる。
ビル・ラズウェル、ピーター・ブレグヴァド、バーニー・ウォーレル、
Tボーン・バーネット、マシュー・スィート、ドン・ディクソンなど
新旧ロックの表から裏まで網羅するかの如く幅広いミュージシャンと共演した。
並行して、Peru Ubu でもドラムを。
デイヴィッド・トーマス、メイヨ・トンプソンら
アメリカの地下ロック界の重鎮たちと互角に渡り合う。
まさに80年代アメリカンロックの裏のハブ。
ビル・ラズウェルと並ぶネットワーカーだった。
 
1作目はまさにニューヨーク・アンダーグラウンドのドリームチーム。
この3人を含む5人が白のYシャツにネクタイをして
ピアノのある小さな部屋でやさぐれて写っているジャケットにノックアウトされる。
音でもう一度やられる。
白眉は1曲目の”Incident On South Street” 
真夜中の雑居ビルの地下室で演奏しているかのような
割とオーソドックスな隙間の多い、素人くさいジャズに
突然鋭角に切り込んでくるアート・リンゼイのギター。
ジャズのイディオムに基づいたフレーズはゼロ。
この切り込む瞬間を聞きたくて何度もプレイバックしてしまう。
このギターソロに匹敵するのは
Gang of Four「Entertainment!」の”At Home He's A Tourist”だけだと思う。
 
アントン・フィアのドラムがロボットのように正確なのが、
演奏を案外しっかりしたものに感じさせる。
ジョン・ルーリーも後のアルバムではフワフワした
アトモスフィア的なソロだけど、ここではまだ普通に演奏しようとしている。
大半の曲をジョン・ルーリーが書いていて、
”Well You Needn't” ”Epistrophy” の2曲が
セロニアス・モンクというところが意外なルーツ。
 
その後様々なメンバーが出入りして、
ジョン・ルーリーのジャズでもロックでもない
幽玄でどこかとぼけてている独特な音楽的ビジョンを実現するユニットへ。
はまるとどのアルバムもいいんだけど、
最終作「Queen of All Ears」がその無国籍的音楽性の頂点を極めてオススメ。
当時タワレコのポップでは King Crimson を引き合いに出していた。
 
この当時の来日公演を渋谷クワトロに見に行った。
大所帯のバンドで音楽的なディレクターはトランペットか誰か別だったな。
お膳立てされた舞台でジョン・ルーリーが吹くという。
どこ吹く風、のようなサックス。
でもそれがファンにはたまらないんだよな。
 
なお、Lounge Lizards とはバーにたむろするジゴロのこと。
 
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Yo La Tengo 「ELECTR-O-PURA」
 
Yo La Tengo とはスペイン語で”I Got It!”のこと。
メジャーリーグのある外野手の決め台詞なんだとか。
 
気が付いたらそこにいて、ひょうひょうとしたまま
アメリカのインディー・ロック・シーンの最重要バンドに上り詰めた感がある。
最高級にプロフェッショナルなアマチュアリズムとでも言うか。
僕が聞いたのはこの1995年の「ELECTR-O-PURA」から。
”Tom Courtenay”と”Blue Line Swinger”という彼らを代表する2大名曲が収録されている。
僕にとっては青春の一枚のひとつ。
学生時代に撮った映画でも勝手に”Tom Courtenay”を使った。
冒頭でロックなバージョンを、ラストでアコースティックなバージョンを。
 
ヴォーカル・ギターのアイラ・カプランとドラムのジョージア・ハブレイは夫婦。
そこにベースのジェイムズ・マクニューが加わるという不動の3人。
トリオ編成のシンプルなロックナンバーを演奏したかと思えば、
キーボード主体の静かな音響系インストナンバーにフェードインしたりと揺れ幅が広い。
それが寄せては返す波のようで心地よい。
ここまで美しいギターノイズを鳴らすバンドはない。
 
当時、同じく Yo La Tengo を気に入った大学の先輩と渋谷クワトロに見に行った。
アイラはマラカスを激しく振りながら登場して、キーボードを弾きながら一人で歌った。
もちろん、”Tom Courtenay”もやった。
以前のアルバムから ”Big Day Coming” もやってたな。
最後の方、客席にリクエストを募った時に
「”Tom Courtenay”もう一回! アコースティックで!」と言いたかったけど、
モジモジしてて言えなかった。
そのときは ”Speeding Motorcycle” となった。
ダニエル・ジョンストンと共演したシングルがあるんですよね。
いいリクエストをしてくれる人がいてよかった。
 
彼らのアルバムにハズレはなく、
一般的には「ELECTR-O-PURA」よりもその次の
「I Can Hear the Heart Beating as One」や
「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」の方が評価が高いか。
さらにその次の「Summer Sun」と合わせて4作品が昨年末紙ジャケで再発された。
「I Can Hear the Heart Beating as One」は
ミニアルバム「Little Honda」に収録された楽曲や
シングル「Autumn Sweater」の Tortoiseケヴィン・シールズらの
ミックス違いを集めたボーナスディスク、
「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」は
日本企画の編集盤「Mishimoshi-Moshi」の楽曲、
ソニック・ブームや竹村延和らのリミックスを含むボーナスディスクが付属していて、
これは買い。
 
「ELECTR-O-PURA」も当時の日本盤とはボーナストラックが異なる。
「Camp EP」のうち、
”thin Blue Line Swinger”と”Can't Seem To Make You Mine”が今回の紙ジャケに、
”Mr. Ameche Plays the Stranger”が当初の日本盤に、
”Tom Courtenay”のアコースティックバージョンが両方に、という。
ファン泣かせ。でもきっと聞くと報われる。
CDの収録時間の都合なんですよね。
僕は本編のあとに「Camp EP」が続くように合体させて iPhone に入れ直した。
 
この紙ジャケ、HMVのサイトで予約したが、発売日になっても一向に入荷せず。
年を越してしまった。
一方でタワレコには在庫があって、なくならないうちにとこちらでオーダーし直した。
タワレコ限定ってことはないみたいだけど。不思議なこともあるものだ。
 
改めて「ELECTR-O-PURA」を聞く。何度も聞く。
ラスト、”Blue Line Swinger” に泣く。
アメリカの雄大な地平線ってこんな感じなんだろうな。
オルタナティヴ・ロック史上最も美しい音楽的地平。
僕らを乗せて Yo La Tengo は夢を見るかのように疾走する。