先週買ったCD #23:2021/03/15-2021/03/21

2021/03/16: www.hmv.co.jp
山下達郎 「Treasures」 \440
 
2021/03/16: www.amazon.co.jp
tujiko noriko 「少女都市+」 \858
 
2021/03/18: www.hmv.co.jp
(Soundtracks) 「アマデウス オリジナル・サウンドトラック盤〔ディレクターズ・カット版〕」 \1940
 
2021/03/18: diskunion.net
近藤等則・IMA 「東京薔薇」 \551
Jonsi 「Go」 \361
Jonsi 「From the Motion Picture : We Bought A Zoo」 \646
Jonsi & Alex「Riceboy Sleeps」 \741
Damon & Naomi 「Everything Quieter Than Everything Else」 \1217
Al Kooper 「Rare & Well Done The Greatest And Most Obscure Recordings 1964-2001」 \1140
(V.A.) 「極東最前線」 \455
Jackie Mittoo 「Keyboard King at Studio One」 \741
 
2021/03/19: ヤフオク
(Soundtracks) 「Black Hawk Down」 \1280
 
2021/03/19: diskunion.net
Jerry Garcia 「Run for the Roses」 \680
 
2021/03/20:  ヤフオク
David Bowie 「Something in the Air」 \5850
 
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tujiko noriko 「少女都市+」
 
先週、Cuushe「WAKEN」について書いた後、
久しぶりにツジコノリコを引っ張り出して聞いた。
00年代始めの頃に出た最初期のふたつのアルバム
「少女都市」と「ハードにさせて」
オーストリアのレーベル『MEGO』から出ている。
音響系エレクトロニカというか、
有名なところではフェネスやジム・オルークを出している。
 
あの当時、ツジコノリコは話題の人だった。
そもそもエレクトロニカという音楽自体が珍しかった。
テクノとは違う。踊るための音楽ではなく、
その存在自体が曖昧なものを目指していたような。
その中でもツジコノリコの音は何にも似ていない異質な音だった。
それ自体が音楽シーンに投げ込まれた異物のように僕は感じた。
 
その後、ソロと並行して
AOKI takamasa / Tyme. / 竹村延和 らと
コラボレーションしたアルバムを次々に発表。
でも2010年代半ば以後は特にリリースはないのかな。
最近は名前を聞かない。
 
僕は2003年の「From Tokyo To Naiagara」というアルバムが好きで、
どちらかというとエレクトロニカというよりも
女性シンガーソングライターの作品として聞いていた。
金延幸子大貫妙子らの系譜に連なるような。
自分の感情よりも感覚を歌にする。
だけどそれはギターやピアノではなく抽象的な音に乗せて、
というところが現代的に思えた。
 
僕は2012年にライヴを見たことがある。O-NESTだった。
Tyme.xTujiko「GYU」のリリースパーティーという位置づけだった。
その日の日記によれば
AOKI takamasa / くふき の2組のあと。
こんな風に書いていた。
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フロアは超満員。ツジコノリコは三つ編みで登場。
中年まっしぐらと言いつつ、その日109で買ったという
夏のヒマワリ畑が似合いそうな少女っぽいチェックのワンピースを着ていた。
エレクトロニカの歌姫」なんて呼ばれるけど、確かに存在感がすごかった。
それでいて大阪・京都な喋りでファニーな天然系。
今回のステージはラップトップとドラムの3人。
ここまで生ドラムのダイナミズムに合う音だとは。
今回の相方、tyme. の懐の深さだろうか。
しなやかさが違う。リズムが生になった方が機械的な音が広がるんですね。
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2001年の2作目「少女都市」がその後、
2002年のEP「I Forgot the Title」を足して再発しているのを知り、
Amazon の中古で買い直してみた。
やっぱこのアルバムの音が一番尖ってるなあ。変テコというか。
1曲目の”Endless End”からしてどこにも属さない、未知の音。
親密だけど、それまでに出会ったことがない音。
ものすごく遠くて近いところから聞こえてくる。
パラレルワールドのひとつがひょっこり垣間見えた、というような。
それは同時に、童話とかピンナップとか古い映画だとか
いろんな過去の記憶のコラージュでもある。
 
やっぱ、Cuushe とは全然違いますよね。
声が匿名的、ひいてはそのリアルな存在感が匿名的という特徴が似ているだけで。
エレクトロニカにしても音の成り立ちがそもそも違う。
Cuushe が夢なら、ツジコノリコは幻。
 
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アマデウス オリジナル・サウンドトラック盤〔ディレクターズ・カット版〕」
 
1984年のアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞など8部門を受賞。
日本公開時には予告編のCMが昼となく夜となくバンバン流れていた。
けたたましく品のない笑いを連発する
天才ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト
嫉妬に狂う宮廷音楽家アントニオ・サリエリが闇に消えていく姿。
え? 音楽の時間に習うモーツァルトってこんなんじゃないよね!?
と興味をそそられた人が多かったのでは。
 
アマデウス』という映画を僕が最初に見たのは
大学一年か二年の教養課程の授業だった。
東京芸大とどちらを受験するか迷って東大に入ったという異色の経歴の先生が
担当する音楽史の講義で、その年のテーマはモーツァルトだった。
音楽室で実際にピアノで曲を弾きながら、という。
東京での大学受験の際に泊めてもらってお世話になった叔母が
大のモーツァルト愛好家で、アマチュアの研究会にも属していた。
なのでなんかあったら教えてもらおうと思って取ることにした。
レポートの時期には泊まりに行ってCDを聞かせてもらいながら書いた。
 
授業では『アマデウス』を見る前に、別の伝記映画を見た。
モーツァルトがけたたましく笑うことのない、ごく普通の方。
その後だけに『アマデウス』がいかに型破りで面白い映画なのかよくわかった。
クラシックの知識や時代背景がわからなくても十二分に楽しめる
普遍的な人間の葛藤や運命の交差を描いたドラマだった。
監督のミロス・フォアマンはその前に
アカデミー賞の作品賞、監督賞を獲得している。
一風変わった、だけど骨太な人間ドラマを描く名手なんですよね。
後にジム・キャリー主演の『マン・オン・ザ・ムーン』も撮っている。
R.E.M. が主題歌を手掛けたのも話題になりました。
 
アマデウス』をもう一度見たいと思いつつ、なかなかかなわず。
サントラはモーツァルトの有名な曲を集めていて、
モーツァルト再入門にいいんじゃないかと取り寄せてみた。
さすがに聞いたことのある曲ばかり。
優しい色彩に満ちた光が束になって穏やかに流れていくような。
ミモフタモナイが、ほんと天才なんだなあと。
モーツァルトの曲だけではなく
(僕は昨年、エマ・カークビーの歌うのを中古で買った)や
ジョルダーノ ”カロ・ミオ・ベン” といった
同時代の作曲家の曲も加えることで奥行きを増している。
そしてサリエリの曲も……
普通過ぎて耳には残らなかったが……
 
モーツァルトを聞くとα波が出て心が落ち着く効果があるんだったか。
歯医者の待合室を思い出して落ち着かない。
 
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Jonsi 「From the Motion Picture : We Bought A Zoo」
 
積読ならぬ、積聞のCDというものがある。
買ったけど長年聞かずにほったらかしのCDたち。
僕の場合、ふたつ傾向がある。
 
・聞きたい、というよりも持っていたい。
 4枚組のボックスセットy限定盤で流通量が少ないため、
 在庫のあるうちに買っておきたい。
 勝ったというだけで満足するので特段聞かなくてもいい。
(妻が、はあ? と言って怒るパターン)
 
・初回限定盤でDVDがつくんだけど、
 そのDVDを見るのがめんどくさくてほったらかし。
 だったら初回限定盤なんて買わなきゃいいのだが、
 同じく、せっかくだから在庫のあるうちに買っておきたい、となる。
(こちらも、はあ? となるな……)
 
ヨンシーというアイスランドのアーティストの
 「Go Live」という2010年のアルバムを発売直後に買って、
11年ほったらかしていたのを
ようやく山の底から掘り出して聞いた、見た。
コロナ禍で100%在宅勤務となって、状況が変わったことが大きい。
*往復の通勤時間がなくなった
*音楽を聞きながら仕事ができるようになった
*昼休みにDVDを見ながら食べても誰も何も言わない
もう、今せっせと山を切り崩していますよ。
 
ヨンシーは Sigur Ros のヴォーカル、ギター。
残念ながら僕は見る機会がなかったが、何度も日本で演奏している。
フジロックでもやってたかな。
氷山の崩れ落ちる瞬間、
その幻想的な美しさと破壊のダイナミズムが同居する音。
弦楽器が穏やかに乳白色の音を奏でたと思えば、
一転ギターノイズがオーロラのように降り注いで。
そこにヨンシーのファルセットヴォイスが重なる。
世界一美しい音を紡ぎだすバンドのひとつだと思う。
 
「Go」が初めてのソロアルバムで、「Go Live」がそのライヴ版となる。
Sigur Ros もソロも正直、大きく変わらないと思う。
バックのメンバー、楽器の構成が変わるだけで
基本となる音のスケール感、その大きさは同じ。
「Go Live」の初回盤のDVDは衣装リハーサルを兼ねた公演初日で、
ただ演奏するだけではなくアニメーションを重ねてみたり、
バックステージでのバンドメンバーのインタビューを交えたりと工夫されている。
見ていてとても面白いものだった。
しまった、これを僕は10年間見逃していたのかと悔やんだ。
 
Sigur Ros のアルバムは皆持っていて、
ヨンシーのソロは他に持っていなかった。
DiskUnion で安く中古で売っていたのでまとめて購入。
「Go」と映画『幸せへのキセキ』のサントラと
パートナー、アレックスとの「Riceboy Sleeps」と。
どれを聞いても氷河へと向かう小舟、頭上には満天の星空を思う。
北極圏の雄大な自然を思う。
 
この「From the Motion Picture : We Bought A Zoo」が
幸せへのキセキ』のサントラで、
『あの頃ペニーレインと』などで知られるキャメロン・クロウが監督。
若い頃に米ローリングストーン誌のライターだったこともあって
映画界きってのロック通として知られる。
その彼が白羽の矢を立てたのがヨンシーってことになるんだけど
幸せへのキセキ』は Sigur Rus の映像作品『Heima』に影響を受けて
この作品を撮った、というようなことが解説にあった。
 
残念ながらまだ見ていない。
マット・デイモン主演。妻を亡くした男が
家族を再生するために動物園を購入し、奮闘するというドラマのようだ。
撮影にあたってマット・デイモンはヨンシーの曲 ”Sinking Friendship”
を聞きながら気分を高めた、という。
サントラはその ”Sinking Friendship” や ”Boy Lilikoi” ”Go Do”など
「Go」からの曲と、映画のための書下ろし。
 
Sigur Ros もソロもイメージを喚起する力がすごく強いんですよね。
今思うと Sigur Ros の作品は全て架空のサウンドトラックのようでもある。
 
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Damon & Naomi 「Everything Quieter Than Everything Else」
 
僕のような80年代アメリカのインディーロックを聞いていた者からすれば
Galaxie 500Sonic Youth と並ぶ神の如き、孤高の存在であった。
真夜中の静寂が色褪せていって、
夜の明け始めるわずかな一瞬を小さな瓶の中に閉じ込めたかのような。
ヴォーカル・ギター、ベース、ドラムのミニマルな編成。
淡々と気怠い歌と演奏が刻まれていくうちに熱いものがこみ上げてくる。
3枚のアルバムを発表して1991年に解散した。
僕はリアルタイムには知らなかった。
解散後の Rockin’on でその無念について綴った記事がライター達から寄せられていた。
代表作の「On Fire」や代表曲 ”Blue Thunder” の素晴らしさについて語られていた。
1993年、上京してからすぐ探したアルバムのひとつだった。
 
解散後、ヴォーカル・ギターのディーン・ウェハムは Luna を結成、
Television や Talking Heads 直系のリリカルなギターロックを聞かせた。
1995年の「Penthouse」といった名盤を残している。
残されたドラムのデーモン・クルコフスキーとベースのナオミ・ヤンは
Damon & Naomi として活動を続けた。
正直、僕は後者の方をこれまで全く聞いていなかった。
レコファンなんかで国内盤の中古を見つけるも
また今度にするかと思っているうちに、という。
 
それがまた不思議な、予想もしていなかった音楽的縁で聞くことになった。
昨年の秋から冬にかけて High Rise を聞き返す機会があって、
「Tokyo Flashback」というオムニバスのシリーズの1作目を取り寄せて聞いてみたら
Ghost というグループが気になった。
リマスター音源が再発されていることを知って年末年始にかけて中古を買い漁った。
70年代からの日本のフォーク、サイケデリックの系譜の最新系というか。
神秘的で迷宮的な音の佇まいがよかった。
中世の錬金術師たちが現代に甦ったかのような。
途中から加わったギターの栗原道夫が
ヘヴィロックバンドの BORIS でも準メンバーだったのも 面白いつながりだった。
しかしいかんせん、英語詞を歌うヴォーカルのカタカナ英語っぽい歌い方が鼻について
のめりこめず。演奏そのものはとてもいいんだけど。
 
残念だな、と思っていたらこの再発シリーズの1枚で
この Demon & Naomi のアルバムが出ていた。
Ghost がアメリカでツアーした時に知り合ったんだったか。
栗原道夫はギターをサポートすることになった。
このアルバムは Demon &Naomi が
日本で演奏を行った時のライヴアルバムで、
前半が2008年で後半が2005年の、どちらも渋谷 O-Nest となる。
Ghost からも栗原ミチオと首謀者の馬頭將噐が参加している。
 
Damon &Naomi は Luna とは違ってよりアコースティックな音なんですね。
Ida や Low を思い出した。
そこに、Ghost のピンと張りつめた演奏が加わる。
アシッド・フォークとでも言うか。幽玄で儚い。
京都の禅寺で石庭を整えるかのような。
深い霧のかかった中で自らの声の残響を聞くかのような。
ひとつひとつの音が、この世界の在り方を探る。
Galaxie 500 の、真夜中の静寂から夜明けに至る一瞬を音で再現する
というのは彼らの方が受け継いだのだな。
夜明けのその瞬間が来るのをギリギリまで引き延ばしていく。
ひと気のない林の中に降り注ぐ、最初の木漏れ日とでもいうか。
 
Damon &Naomi も Luna も今も活動している。
その音楽性はあまりにもかけ離れてしまった。
Galaxie 500 が再結成することはないだろう。