田河水泡とのらくろ

毎朝、NHK-BS で朝ドラを見る。
『Come Come Everybody』の前に、『マー姉ちゃん』をやっている。
サザエさん』の長谷川町子の姉が主人公。
今はまだ戦前で『サザエさん』の連載は始まっていない。
長谷川町子は『のらくろ』の田河水泡に弟子入り後、
漫画家としてデビューという段階。
 
この田河水泡愛川欽也が演じていてなかなかいい。
懐の深さというかユーモラスな抱擁力がある。
こんないい役者だったのか。
調べたら『マー姉ちゃん』は1979年の作品だった。
僕は後の、バラエティ番組の司会者としての姿しか記憶にない。
 
次第に、戦争の影が忍び寄ってくる。
あぐり』でもそうだったけど、
パーマ屋は廃業せよという婦人会の圧力が高まってきた。
田河水泡も軍部に呼ばれる。
日本の軍隊を描いているのだからもっと戦意高揚に協力せよ、
と求められるが、田河水泡は断る。
自分は子供たちが兵隊ごっこをして楽しんでいるのを漫画にしただけなのだと。
その穏やかな表情は暗に戦争には反対していること、
若者を戦地に送る手助けをしたくはないのだと語っていた。
 
昭和13年か14年でそこまで状況は悪くはなかった。
その将校も話が分かる人のようで、
描かれている国旗が日章旗ではないのだから
この漫画の舞台は架空の国なのだと捉えることにする。
それでいったんお咎めなしとなった。
 
そうか、『のらくろ』はそんな簡単なものじゃなかったんだな、と知る。
小学校の頃、図書館に全集があってそればかり読んでいた。
塹壕と兵舎の場面ばかりで、孤児だったのらくろはがんばって階級を上げていく。
戦争を肯定する漫画なのだとばかり思っていた。違うんだな。
相いれない矛盾するものを抱えつつ、戦場の日常をデフォルメするものを描いた。
だからどこか寂しいのだな。
賑やかな場面にも乾いたものがあった。
あの笑いも、根底にあったのはペーソスだった。
また読み返したくなった。
図書館にあった布張りの愛蔵版、入手できないかな。
 
荻窪に住んでいた頃、近くに区立の郷土博物館があることを知って、
そのときたまたま展示していた『田河水泡の杉並時代』というのを見た。
時代は違うものの僕も近くに住んでいたんだよな。