練馬の日常

道路を挟んでお向かいは古くからの立派な家で、
時々、縁側で猫が丸くなっている。
みみたをバルコニーに出すと壁の足元にある小さな窓に
首を突き出して眺めている。
友達が欲しいのか。じっと見つめている。
でも向こうの方が気づいているのかはよくわからず。
 
洗濯物を干そうとしてバルコニーに出ると
お向かいもまた干しているところで、挨拶を交わすこともある。
朝の時間帯は合うことがあるけど、
夕方取り込む時に顔を合わせることはない。
僕が外に出るときには既に取り込み済みになっている。
きちんとした人たちだ。
 
それが珍しく昨日の夕方は
タオルを干したピンチハンガーが吊るしたままになっていて。
片付け忘れたのかと思う。
……今朝見てみたらまだあった。
快晴。冬とはいえ、洗濯日和。
洗濯物を取り込み忘れているというよりも、
こんな日に外に干してないという方が気になった。
 
何かあったのだろうか?
もしかして殺人事件が……
なんてモワモワと妄想する。
練馬の普通の住宅地。
案外そういうところでも事件は起きるのかもしれない。
 
しかし、今日もまた猫が縁側で丸まってペロペロしている。
室内は血の海とか、そんなことないか。
穏やかな猫の姿を見て家の人の無事を知る。
 
明日も干しっぱなしだったらどうしよう。
家まで行ってチャイムを鳴らし、無事を確認した方がいいだろうか。
 
そんなことをなんとはなしに考えていたが、
今日の夕方バルコニーに出たらタオルは既に取り込まれた後だった。
 
何事もなく、練馬の日常は続く。
がらんとした物干し竿が延びている。
僕は僕で洗濯物を取り込む。
みみたが出てきて、縁側に猫はいないのに窓から首を出して外を眺める。