先週買ったCD #91:2022/07/04-2022/07/10

2022/07/04: tower.jp
Josephine Foster 「No harm Done」 \2310
Josephine Foster 「Godmother」 \2530
 
2022/07/04: BOOKOFF 大阪心斎橋店
Ariana Grande 「Dangerous Woman」 \550
Counting Crows 「Hard Candy」 \510
 
2022/07/05: www.amazon.co.jp
Stray Cats 「Built For Speed」 \2185
Hooters 「30 Years more than 500 miles」 \1039
 
2022/07/05: www.amazon.co.jp
Stray Cats 「Original Cool」 (\930)
Stray Cats 「The Best Of Stray Cats」 (\280)
Anita Baker 「A Night Of Rapture: Live」 (\2699)
 
2022/07/07: www.amazon.co.jp
Beautiful South 「The BBC Sessions」 \780
 
2022/07/10: www.amazon.co.jp
Robin Trower 「Robin Trower Live!」 \4998
 
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Hooters 「30 Years more than 500 miles」
 
ポップで曲が分かりやすく、なのに男臭くて職人気質。
レゲエやケイジャンをさらっと取り入れ、
マンドリンメロディカ(彼らはフーターと呼ぶ)を器用に操る。
代表曲”And We Danced” の邦題が”朝までダンス”というダサさも3周回ってなんかいい。
 
Hooters ってほんとアメリカンロックの良心って感じで大好きなんだけど
話題にするのが憚られるのは、
フーターズ』と言ったときにだいたいの人は
セクシーな制服を着たウェイトレスのいるあの店を思い浮かべるだろうからですね。
えーと、まだあるんだっけ? 銀座というか新橋の方に。
実際どうなんだろうなあ。案外フードメニューがおいしかったりするのか。
バドガールがいるってことで話題になった新橋のバドワイザーカーニバル
ガチャガチャ騒がしかっただけだった。
 
それはさておき。
CBSソニーから発売された3枚のアルバムはどれも甲乙つけがたい。
「Nervous Night」(1985)”And We Danced” ”Day By Day” ”Nervous Night”
「One Way Home」(1987)”Satellite” ”Karla With A K” ”Johnny B”
「Zig Zag」(1989)”Brother, Dont You Walk Away” ”Deliver Me” ”500 Miles”
どのアルバムにもしっかりキラーチューンがあって、一度聞いたら忘れられない。
久しぶりに聞くかと手を出したが最後、一週間ずっとこの3枚を繰り返し聞いてしまう。
 
その彼らのベストアルバムは何枚か出ているが、決定打がない。
デビュー前のシンディ・ローパーと共作して大ヒット、
その後マイルス・デイヴィスもカバーした”Time After Time”のセルフカバー。
カバーで言えばビートルズの”Lucy In The Sky With Diamonds” も演奏している。
個人的に一番好きな曲は「One Way Home」の最後に収録された”Engine 999”
聞いていると背中を押され、励まされている気持になる。
上記のキラーチューンと、これら3曲が入っているのが欲しい。なのにそれがない。
困ったことにこの3曲のうちのどれか1曲が欠けている。
 
例えば。CBSソニーは80年代末から90年代前半ぐらいにかけて
『STAR BOX』というベストアルバムのシリーズを出していた。
洋楽だとストーンズTOTO に Weather Report
その中に Hooters のもあったな。
この場合、”Time After Time”が入っていない。
日本のラジオ局用に日本語で歌った”Johnny B”は入っているのに。
 
今回このアルバムを買ったのは
”The House of Wolfgang”というシングルB面曲が入っていたから。
これは珍しいと思う。僕も聞いたことがなかった。
(正直、聞いてみるとそれほどの曲ではなかったですが)
また、”And We Danced” や ”Satellite” が
明示的にシングルバージョンで収録と記載されていたから。
他のベストアルバムもそうかもしれないけど。
”Time After Time” と ”Lucy In The Sky With Diamonds” はライヴバージョン。
残念ながら ”Engine 999” や "Deliver Me" は入っていないが、
まあいいか、ここまでいけば十分か、と思った。
 
そう、何度か曲名を出したけど、
彼らは(正確に言うとメンバーの一人のロブ・ハイマンは)
”Time After Time” (1984)を書いている。全米No.1に輝いた。
実は彼らはもう1曲、全米トップ10に入った有名な曲を書いている。
ジョーン・オズボーンのデビュー作に収録された”One Of Us” (1995)
サントラに使われて大ヒットしただけではなく、この年のグラミー賞にもノミネートされた。
(しかし、新人賞を含む多くの部門でアラニス・モリセットと競って敗れた)
どちらもアルバムのプロデューサーが元 Hooters のメンバーだった
リック・チャートフだったという縁なんですよね。
「Five by Five: EP」(2010)という5曲入りのミニアルバムで
改めてこの2曲をカバーしている。
 
彼ら自身も”And We Danced” ”Day By Day”が全米ベスト10に入る人気だったのに
レーベル移籍後の「Out of Body」(1993)から地味な展開に。
90年代半ばに解散、21世紀に入ってから再結成というありがちなパターンとなった。
日本にもいまだに根強いファンがチラホラといるように思うけど、どうだろう。
洋楽好きな人と話して、実は Hooters が好きというとき、
おお、我が同士よ! とものすごく盛り上がる。
 
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Josephine Foster 「Godmother」
 
アルバムタイトル通り、USフリー・フォーク界のゴッドマザー。
暗き暗き地の底の広大な地下水脈を行く船。そのの寡黙な水先案内人。
 
僕がジョセフィン・フォスターのことを知ったのはいつだろう?
何がきっかけだろう?
最初に聞いたのは2012年の「Blood Rushing」だった。
空の隙間から星が覗き、真っ赤な滝が流れているというジャケット。
それが真っ赤な山か波となってうねっている。
恐らく、ジャケ買いだろう。
精神の荒野を一人彷徨うような音に一発でやられた。
陽炎のような、どこから来てどこに向かうのか、全く分からない音楽。
 
次に買ったのは The Victor Herrero Band と共演した
「Anda Jaleo」(2010)と「Perlas」(2011)をセットにした国内盤。
今はなき、外苑前の『Cibone』で見かけて買った。
前者は20世紀前半のスペインを代表する詩人
フェデリコ・ガルシーア・ロルカの集めた民謡集のカバー。
ザクザクと荒っぽく刻まれるギター。村娘になり切った歌声。
乾いた土や吹き抜ける風、降り注ぐ光の息遣いの感じられる音。
こちらも素晴らしかった。
 
その後、日本で入手可能なCDをできる限り集めた。
「Graphic As A Star」(2009)は
エミリー・ディキンソンの詩に対して曲を付けて歌ったアルバム。
「No More Lamps in the Morning」(2016)の
”My Dove, My Beautiful One”はジェイムズ・ジョイスの詩に曲を付けたもの。
……というように、彼女の凛とした知性、
幽玄ながら毅然とした音の佇まいにやられ続けた。
 
2013年には来日公演も見に行った。
渋谷のシネマライズの地下にあった『www』
ゲストは 灰野敬二
この日の日記にこんなことを書いていた。
『日米を代表するアンダーグラウンド・ミュージックの巨頭が
 深い深い地の底でソナーを飛ばし合うかのようだった』
『アンダルシアを吹き抜ける風が過去・現在・未来そのどこでもない場所へと誘う。
 途中、ヴィクトール・エレーロがエレキギターに持ち替えるとバリバリとノイズを弾き出して、
 無調のフリー・フォーク頂上決戦へ。
 マンドリンに持ち替えると今度は音の桃源郷をゆらゆらと上り詰めてゆく」
『最後、灰野敬二と相方が爆音インプロビゼーションのガチンコ・バトルへ。
 ギターノイズの歴史数十年分の表と裏が衝突して一気にマグマとして噴出する。
 灰野敬二が眉間に皺を寄せて本気でギターを弾いていた』
 
と、大好きなジョセフィン・フォスターのはずなのに
ここ2作は出たことに全然気づかずにいた。
「No Harm Done」(2020)
「Godmother」(2022)
国内盤がタワレコから入手できそうだったので慌ててオーダーした。
国内盤と言っても帯で少し解説があるだけの
最近よくある『輸入盤国内仕様』だった。
 
早速最新作の「Godmother」から聞く。
幽玄、毅然、深遠、深淵は変わらず。
とてつもない空間の広がりなのか、時間の一点を描いているのか、
もはや宇宙と世界の区別がつかない、というような。
ここは人類の到達点なのか、それとも新しい人類の始まりなのか。
言い方を変えよう。荘子の『胡蝶の夢』を音楽にすると、こうなるのだと思う。
聞き方によっては清涼な、昔ながらのフォークにちょっとだけ味付けしたもの。
退屈な音楽。
しかし僕はここに次元の揺らぎを感じる。
僕の見ているこの3次元の風景は本当に3次元なのか。
4次元から見た3次元なのではないか。
あるいは5次元、6次元……
 
ひとつ遡って「No Harm Done」も大きく変わらず。
そこでは時間が止まっているかのような。
あるいは逆に無限の時間があるのか。
 
いつからジョセフィン・フォスターの作品はこの域に達したのか。
試しにその前の「Faithful Fairy Harmony」(2018)を聞き返しても
印象は変わらない。
さらにその前の「No More Lamps in the Morning」(2016)も……
何もかもを超越した向こう側から音が聞こえてくる。
 
もはや完成度がどうこうというレベルではなく。
「Godmother」は今年を代表する1枚に残ると思う。
最近のアルバムはどれも同じ高みにあるようでいて
それぞれ少しずつ次元の奥行きのようなものが増していっている。
アルゼンチンのフアナ・モリーナ同様、彼女のアルバムは常に最新作が最高傑作。