『大地の芸術祭』へ(その2)

土曜の続き。
文化センター「農舞台」の外に出て周囲の展示をいくつか見てみる。
ママチャリを観覧車のように組み合わせたオブジェ、
その2階の運転席に上ってペダルを漕ぐ。
最初は重かったが、弾みがつくと後ろで大きなものが回転するのがわかる。
 
建物の中に戻って2階の受付脇の掲示板に貼られた
アート作品の位置をマッピングした地図を見ながら妻と次は何を見ようかと話していると
受付の方の手が空いたようで話しかけてきた。
だったら、松平城の天守閣までシャトルバスで行って坂道を下りてくるといいですよと。
天守閣の内部にも見どころがあって、途中の坂道にもたくさん展示されている。
それはいい、と提案に乗っかることにする。
 
シャトルバスは無料で、農舞台と天守閣の間を往復し続けている。
ライトバンに乗る。
田んぼの間に様々な大きさ、形、色彩の作品たちが垣間見える。
坂道は急で、レンタサイクルがあるもそれでも大変そう。
下からゆっくり時間をかけて上ってきている人たちも多い。
天守閣の手前の山小屋のようなところで下ろされる。
坂道を上っていく。急に雨が強くなる。構わず上る。
 
アート作品の展示されているところは
バス停のように黄色い看板が立っていてそれを目印にする。
その看板からスタンプが吊り下げられていて、パスポートに押していく。
森の間にフランス人の建築家なのか、アーティストなのか、
細長い格子柄になった鋼材で組んだ4階建ての塔があって中に入って階段を上る。
側溝の上にかぶせるアレみたいな。その骨組みの隙間から外が見える。
晴れた日ならば気持ちいいだろう。
木々の間から松代ののんびりとしたささやかな街並みが見えた。
一両きりのローカル線がやってきて駅に停まる。
「農舞台」近くの松代駅。ほくほく鉄道。
 
坂道に戻る。さらに急になって汗だくになる。
これは攻めるのも大変だったろうな。
天守閣は3階建てか、小さかった。
受付でパスポートにスタンプを押してもらう。
中がさっそく、白とは思えない現代アートな空間。
黒い枠線で白いタイルを敷き詰めたような。
そこにそのタイルを広がる空間をくしゃくしゃに丸めた球体が吊り下げられている。
3階に上ると中の壁は黒く、真ん丸に繰りぬかれて外が見えるようになっている。
黄金色に塗られた1m四方ぐらいの板が設置されていて、そこに座って写真を撮る。
一つ下の階には黄金の茶室。
中は入れないが、覗き込むと格子の一つ一つに花鳥風月のあれこれが。
しかしカタツムリにサンマにニンニクとなんかおかしい。
 
雨は止まず。
坂道を下り、田んぼの中に入って行って作品を一つ一つ見て回る。
屋外なので無骨な、大きなオブジェが多い。地面に埋め込まれたような。
雨でぬかるんで妻が思いっきり転んでしまった。
買ったばかりのトートバッグも泥まみれに……
 
そんなふうに見て回っていた一つに
「農舞台」のアトリエで見たイリヤエミリア・カボコフの作品『人生のアーチ』が。
切り開いた空き地に設置されている。
真っ白なアーチの上をグロテスクにデフォルメされた人物たちが
卵から生まれ、(灯りのついて明るい)重荷を背負い、
転がり落ちて倒れる様子が描かれている。
その広場に入っていくとき、軽トラックが坂道の脇に停まって
野良着を着た年老いた夫婦が下りてくるのが見えた。
何やら準備しているところに妻が話しかけた。
今は植物で覆われてしまったが、
昔はここに街道があって隣町まで歩いていくことができたという。
その途中に代々の畑や田んぼがあって、
今は耕してはいないがその世話をしに行くところだと。
楽しんでいってください、と言われる。
 
引き続き林の中に入って行ったり、田んぼに出たりを繰り返す。
木々の間に木と同化したケムール人が立っているような『王国』という作品、
中国のアーティストによる、田んぼの脇につくられたフレームだけのシュールな空間をつくった『米の家』、
日系人なのだろうかブラジルの方による
薄っぺらい強化プラスチック製の真っ赤な案山子が田んぼになっていて
それぞれの案山子の裏にはモデルになったおそらく周辺に住む人々の名前が書かれた『かかしプロジェクト』
こういった作品が面白かった。
 
もうひとつ、イリヤエミリア・カボコフの作品があった。
『手をたずさえる塔』とその中に設置された『手をたずさえる船』
世界中の子供たちの絵を組み合わせたのが帆となっている。
『人生のアーチ』の苦悩を背負う人々のそれぞれのデッサン(?)も壁に飾られていた。
塔の前にはテントが設置されていて、初老の男性が一人のんびりと椅子に座っていた。
地元の方がボランティアで手伝いをされているのだろうか。
塔は日が暮れると光を放つけど、えーと、何色だったっけ? みたいな。