使い切った乾電池

使い切った乾電池を握りしめて小雨の降る中を歩く
心なしか背中を丸めて大通りをトラックが何台も通り過ぎていく
駅前のスーパーの前には金属製の古くなった回収箱が置かれている
かつてはリサイクルボックスと呼ばれ中にあったのがいつしか外に追いやられた
 
雨が強くなってきたけど傘がない引き返すのもあほらしい
向かいから長靴を履いた女の子がやってきて傘を振るこの顔にしずくが飛ぶ
怒ったって仕方がないというか何の感慨もわかない
使い切った乾電池を何本かぎゅっと握りしめている
 
右手の中に雨が伝い乾電池がぬるぬると濡れる
そのうちの一本がポトリとアスファルトに落ちる
交差点の手前何もなかったかのように拾い上げる
客を乗せたタクシーが目の前を横切るその後姿が見える
 
駅前に着く賑やかな音が聞こえるカラフルな傘が行き交う
僕は雨に濡れたまま使い切った乾電池を握りしめる背中を丸める
あった回収箱は大きな錆の塊のようだった
一本一本時間をかけて使い切った乾電池を穴の中に落としていく
 
グチャッという音穴の底で乾電池がぶつかり合う音
それを一本ずつ聞く変な人と思われたくないから三本でやめる
残りの何本かは一度にまとめて捨てる
何もかもが終わって駅前を去る
 
右手の中にも左手の中にも使き入った乾電池はない存在しない
他に用事もなく背中を丸めて家路につく
雨は上がったが体は濡れている服も頭も濡れている
使い切った乾電池が穴の底に落ちた音を思い返す何度も思い返す