名古屋へ その1

この土日は名古屋へ。
編集学校でお世話になったSさんが定年退職後、
トヨタ産業技術記念館学芸員をしていて、それも今年で終わるという。
その「卒論」として、最後に自分のやりたかったテーマで企画展を開催。
『うつす展 江戸から未来へ、映す、写す、移す。』
いくつか講演会も組まれていて、そのひとつが19日の写真家エバレット・ブラウンさん。
せっかくの機会なので行ってみようということになった。
トヨタ産業技術記念館そのものは数年前に一度訪れたことがあって、
Sさんに館内を案内してもらっていた。
 
講演会が14時からだったので13時ぐらいに名古屋に着けばいいか、と思っていたら。
Sさんから、エバレットさんとの打ち合わせを11時からやるので是非来るといいですよと。
え、いいんですかと新幹線を取り直して
6時起き、洗濯物を干したりバタバタと準備をして7時過ぎに家を出た。
08:21 の新幹線にギリギリ間に合って、それでもチキン弁当を買うぐらいの余裕はあった。
数日前に取り直したので妻と横並びにはならず。縦に並んだ。
 
チキン弁当はやっぱうまいですね。朝なのでさすがに缶ビールは飲まず。
鈴木 惣一朗のガイドブック『ワールド・スタンダード・ロック』を読んで過ごした。
車内放送があって、右側に富士山が見えますよと。
緑色の富士山。まだ冠雪していなかった。
 
10時ごろ、名古屋着。
昼を食べる時間ないかもなあ、あっても周りにたいして店がなかったよなあ、
トヨタ産業技術記念館には立派なレストランがあるけど名古屋メシが食べたいよなあと
新幹線のホームにある立ち食いのきしめん屋「住よし」に入る。
妻が牛肉入りのきしめん、僕は味噌味のきしめん
10数年前に一度、出張の時に食べたことがあった。
やはりここはうまいですね。特に牛肉入りの方。
ご飯の上に牛肉を乗せてあのだし汁をかけて食べたいなあと思う。
 
名鉄線に乗って一駅、栄生駅で降りる。
11時まで時間があったので、近くにブックオフがあると知って入ってみた。
しかし特に釣果はなし。
 
11時になるのを待って講演会の行われる大ホールへ。
Sさん、エバレット・ブラウンさんと顔合わせ。
エバレットさんと松岡正剛校長はよく一緒に仕事しているので
編集学校というだけで多くが伝わる。
エバレットさんも猫好き、という話になった。
 
展示室に移動し、Sさんの解説で『うつす展 江戸から未来へ、映す、写す、移す。』を見る。
企画の内容に沿って選ばれたエバレットさんの写真も何枚か掛けられていて、
事前の打ち合わせは何度も行ったものの実際に形になった展示をエバレットさんが見るのはこれが初めて。
うつすといえば、写す。前半は写真機の歴史、後半は主に着色写真。
トヨタの集めた膨大なコレクションの中からピックアップされたものが並ぶ。
紀元前4世紀、ピンホールカメラの原理をアリストテレスが発見というところから始まって、
ダゲレオタイプの発明、湿式から乾式へ、写真機の進化と共に露光時間はどんどん短くなっていった。
そして21世紀に入ってデジタル化。コミュニケーションツールとして大きな変化を遂げた。
一方で物事を正確に写し取る役割は写真に任され、絵画は印象派など内面を表すものとなる。
写真と絵画は背中合わせの関係に絶えずあったとSさんは語る。
 
写真機の発展に大きく貢献したのがレンズの発明。
オランダの航海術の発展に伴い、望遠鏡などの技術が進展。
そのオランダに暮らしていたフェルメールもレンズを通してトレースした。
日本にも出島を通じて伝わる。
竹製の筒を用い、漆を塗った顕微鏡もつくられた。
 
日本の写真の父の一人、上野彦馬の紹介もあった。
高杉晋作坂本龍馬の肖像写真を撮影している。
彼らは明日をも知れぬ命だとわかっていたから、写真という記録に自らを託したのだという。 
西南戦争田原坂の戦いで撮影された写真、写真機もあった。
 
後半の着色写真も鎌倉の大仏や鯉のぼりといった風景、祭りに葬儀、集まった子供たち、芸者たち、
いろんなのがあって面白かった。
明治時代、外国人向けの高価な土産物として盛んに製作された。
僕はその存在を知ってはいたけど、何度か見たことがあったけど、
1人の人が画家のように着色していくのだと思っていた。
そうではなく、Sさんの説明を聞いて初めて知ったのが、これは完全に分業制。
赤なら赤、色ごとに担当が決まっていた。
 
エバレットさんの湿板写真も7点か8点、並んでいた。
沖縄の舞踊、現代に生きる山伏、年老いた職人の手。
かつての写真は液体ガラスからネガを作っていた。
携帯用の暗室を立ち上げてそのネガを作って、という作業に最低でも20分はかかる。
その間、温度や湿度、光の加減が少しずつ変わっていく。
しかも、被写体は最低でも10秒はじっとしていないといけない。
おのずと写真の質感が全く違う。
ボタン一つで撮れるデジタルの、SNS向けコミュニケーションツールとは似て非なるもの。
そこに刻まれている風景は、人物は、ひとつの歴史なのだ。
 
妻の編集学校仲間が途中から加わってSさんとエバレットさんの話を聞いた。
12時を過ぎて一度解散。
ミュージアムカフェがあることを知って、そこでカレーを食べることにした。
エバレットさんを除く4人で。僕はカツカレーにした。
妻の頼んだ、牛肉の入った欧風カレーがおいしかった。