太宰の3冊

昨晩は青熊読書会。太宰治の「十二月八日」を読む。
5人の方に参加いただいて、和やかな会になったと思います。
ふと見上げたショーウィンドウの賑やかなディスプレイに、
ああ、ここもあと20日ほどなんだなあと。
自由が丘でのイベントはこの日が最後でした。
 
資料のいくつかを僕の方で用意しましたが、そのうち、青森担当の選ぶ太宰本をここに。
 
■太宰の書いた3冊
1)『津軽
青森、特に津軽半島出身の人に「太宰で一番好きな作品は?」と聞くと、
多くの人が『津軽』と答えると思います。僕もそうです。
あの太宰が蟹田三厩を歩いている。
等身大の、東京向けの気取った仮面をはずした太宰がいます。
最後、小泊村のタケを訪れ、運動会を二人並んで見る場面は涙なしには読めません。
ごく普通の、一人の人間としての太宰がそこに佇んでいます。
 
2)『人間失格
「世界で最も売れている日本の小説」ということになっています。
村上春樹じゃないんですね。
1948年の5月に完成、その1カ月後、入水自殺を果たす。
内容がどうこうよりも、一人の作家が書きたいことを書ききった、
これを書いたら死んでもいいと思って書ききった、その純度の高さこそが問われるべきだと思います。
異様なテンションで突き進みます。
賛否両論あるのは当然でしょう。
 
3)『走れメロス
新潮文庫版は結婚後家庭を持ち、
昭和10年代半ばから終戦に至るまでの短い安定期に書かれた
代表作を中心に集めた短編集(この時期に「十二月八日」がある)。
「ダス・ゲマイネ」「女生徒」「富岳百景」「駆込み訴え」など。
純真なる友情、それを信じること、表題作は道徳の教科書に載るべき作品と
思っている人は多いかもしれませんが、
やはり文学的純度の高さでもって語られるべきです。
 
■太宰を知る3冊
1)『津軽』アラン・ブース
ロンドンに生まれ育った劇作家が日本に興味を持って移住。
最も心酔する太宰治に肖って『津軽』の旅路を自ら歩いてみた。
その顛末記。ユーモアを持って語られる赤裸々なエピソードの数々。
太宰の視点を通して見た、触れた日本、青森。
1988年のことで、外国人の目から見たその頃の津軽半島旅行記なんて
他にないのでは。その意味でもかなり貴重。
なお、新潮文庫版の解説は宮脇俊三
 
2)『小説 太宰治檀一雄
檀一雄太宰治との若き日の交友を回想(1964年に出版)。
共にまだ無名の東大の学生時代に出会った。
ありとあらゆるツテから金を借りまくって妹の服であろうと質に入れて
酒を飲んでひどく酔っぱらっては女を買いに行くという無頼な毎日。
濃密なエピソードばかりが続くが、檀一雄太宰治と頻繁に会ってたのは
昭和10年、11年のたった2年間なのだという。
 
3)『津島家の人びと』秋山 耿太郎、福島 義雄
朝日新聞青森版、昭和55年頃の連載が元になっている。
よく知られているように故郷、金木では有力な地主に生まれ、
戦後の農地改革で没落。その一族の歴史を追う。
やはり、修治(太宰治)と文治(太宰治の長兄)の代になってくるとがぜん面白くなる。
この津島文治は戦後の青森県知事も務めているが、寂しい晩年を過ごして亡くなる。
文治・修治をよく知る人に話を聞いていて、小泊のタケもまだ存命だった。