去年のいつだったか、毎朝ホームで見かける女の子がいるということを書いた。
僕はいつも同じ時間にホームに着いて、柱の陰、同じ位置に立つ。
列の先頭で乗るために1本やり過ごす。
女の子はその時点で、僕よりも早く来て椅子に座っている。
携帯を眺めているか、本を読んでいる。
次のが来て、僕は乗り込む。ドア脇の端の席に座る。
女の子が立ち上がって、ホームに並ぶ。
彼女は少なくとも、2本はやり過ごしているわけだ。
なんでそんなことをしているのだろう? とずっと気になっていた。
だからと言って、話しかけて聞くようなことでもない。
東京で暮らすなら何事も知らないフリをしているほうがよいのだ。
昨年4月に大阪での生活を終えてこっちに戻ってきて、
夏になり、秋になり、そして冬になった。
もしかして僕に何かしら関係があるのだろうか? 気がある?
しかし、何かの弾みに彼女と目が合うというようなことはなく。
彼女は僕のことなんて、気付いてないかもしれなかった。
そんなある日、先月の初め頃だったと思う。
いつもの場所に立とうとしたら車両のドアのところで女の子が2人、
お互いの肩をギュッと抱いてたのをそっと引き離しつつ、
感極まって大声になりながら「ありがとう」「また連絡する」と言い合っていた。
手を振って別れて、ドアが閉じた。地下鉄が走り去る。
それとなく立ち止まっていた僕は
何事もなかったかのように移動して、柱の陰に立った。
もちろん、あの女の子だった。
そうか。…そうか。…でも。
ずっと会いたかった友達を探すために毎朝待っていた?
偶然を装って?
その日僕が車両に乗ると、彼女の姿はホームになかった。
いつのまにかいなくなっていた。
それっきり、女の子を見かけることはなくなった。
年が明けて僕はそのことをすっかり忘れてしまっていた。
今日になってふと、思い出した。やはり彼女はそこにいなかった。
何の変哲もない、早朝のホームが広がっていた。
どんな気持ちで、毎日待っていたのだろう。
僕はいつもの時間にいつもの場所に立つ。
いつもの車両に乗って、日々同じことを繰り返す職場に向かう。
僕は、何を待っているのだろう。
それは、来ることがあるのだろうか?
目を閉じて座席に沈み込む。
話している声はなく、誰もが無言でその場を過ごしていた。
車両が地下を走る音。ただそれだけが聞こえた。