小学館ビルの解体

昨年9月に始まった小学館のビルの取り壊し工事が先月末終わった。
地鎮祭のテントが立っていたから、すぐ新しいビルが建つのだろう。


(8月は1階の壁に浦沢直樹を初めとしてそうそうたる漫画家たちが残した
 記念の「落書き」を見ようとファンが集ったのがまだ記憶に新しい)


毎朝毎晩その前を通る。
ビルを取り壊す作業をここまでマジマジと眺めたのはこれが初めてか。
最初の1ヶ月か2ヶ月は動きが全く見えなかった。
ショベルカーが建物の中に入っているのは外から見えて、音だけが聞こえた。
出入口となるのか、縦横8mぐらいの大きさの四角形の穴が離れて2つ開いた。
恐らくその内側では解体に向けて何かが大きく組み替えられていたのだろう。
取り外したものを効率的に運ぶための道筋をつけたりといった予備的な作業。
知らない間に病巣が広がっていて、表面化する際には元に戻れなくなっている。
そんなアナロジーを思う。


その後、ビルはクリーム色の防音パネルですっぽり取り囲まれた。
クリスト&ジャンヌ=クロードがポン・ヌフを布で覆ったのを思い出す。
やはり何が起きているのかは外からはわからない。
日々少しずつ少しずつ一段一段とパネルの壁は高さが下がっていって、
それとともにビルだった建物もまた
その高さにあったものが蒸発したかのように消えていった。
上からどんどん分解していくんですね。
年末年始を挟んでここからは相対的に早かった。


(同じ位置、同じアングルから写真を毎日撮っておけばよかったと思う。
 時々思いついたように写真を撮ってはいたけど
 場所も距離もバラバラで、並べなおしてみた時にちょっと後悔した)


それがある朝気がつくと更地になっている。
工事現場の冊だけが残されている。
ああ、こんなふうに跡形もなくなってしまうんだと
通勤途中立ち止まって、しみじみと眺めた。


また別の日はその奥にあった別のビルを小学館のビルだと錯覚する。
あれ、こんなだったっけ? いや違うと思い直すまで数秒かかる。
記憶とは曖昧なものだ。


瓦礫はどこに運ばれたのか。
その中には件の落書きの壁の破片もあったのだろう。
工事現場の人たちはプロだからそこで手を止めたりはせず、
瓦礫を瓦礫として片付けたのだろう。
オバQ20世紀少年たち…
売りに出したらそれなりの値段がついたんだろうけど
そうしなかったのは偉いと思う。
もしかしたらそのまま取り外して保存しているのかもしれないが…
どうなんだろう。