「恋人たち」

恋人たちは深い海の底を歩いた
声を交わすことなく、ただその手を握り合って
何万年、何十万年と
やがてひとつの生き物となるまで


人類最後の恋人たちが
海の底何万メートルもの呪いをかけられて、希望を託されて、
永遠に醒めることのない夢の中で
降り注ぐ真っ直ぐな重力に晒されながら


見上げると何十億もの人類が住んでいた都市が浮かぶ、漂う
何千もの崩れ落ちた円柱が絡み合って
今もまたひとつの塔が音もなく光のない砂の上に
はるか向こう最後の海、月の波間、紫色の夜明け