近未来もののアイデア

近未来。シンギュラリティ以後、
テクノロジーはもはや手の届かないところへと進化している。
一方で人々の生活は後退している。
貧富の差が一層激しくなり、0.1%以下の大富豪が全世界の富を握る。
一般人はもはやインターネットに接続することも携帯電話を持つこともかなわない。


一種のタイムマシンが発明され、物質の移動はまだ全然無理だが、
過去の映像は取得できるようになった。古今東西、地球上のあらゆる過去。
ただし精度は95%程度。100%にはならない。
欠落したもの、補完できないものも多い。
ありとあらゆるものがネットに接続され記録され、
あるときからバーチャルな代替世界が構築された。
それを推論的に遡っていくことで過去を生み出していく。
まさに膨大な量の情報量となる。
そのとき、100億の人口があったとして
全員が何百万年かけても全て見尽くすことはできないような。


人類の意思とは独立して動く巨大な AI がまさに暴走するように過去を作り出していく。
何のためなのか。「知りたい」というただそれだけなのか。人類や宇宙の秘密を探りたいのか。
何にせよそれは遂に紀元前を超えた。
その「歴史」にアクセスできる人間はやはり限られている。
政府高官と大富豪と。つまり AI によって許可された人たちだけ。


人類の多くは一次産業から解放される。
農産物も海産物も大半が生産管理の対象となり、
最下層の人々は合成食料しか口にすることができない。
それでは、「多くの人々」は何をしているのか?
末端の工場で歴史を作る作業に従事している。週5日40時間労働で。
一握りの知的エリートは AI でも判断できないような
再現の矛盾、コンフリクトを取り除くための議論や調査を行う。
残りの大半は過去の映像をひたすら視聴してインデックスをつける作業に従事している。


例えばある大富豪は自分の一族のファミリーヒストリーを作成したいと望んでいる。
AI は曾祖父に関連する映像は選び出すが、その細かな意味付けは人間でないとできない。
不要なものを取り除き(とはいえ99%以上の精度ではあるのだが)、
つないでいかないといけない。
早送りはしない。1分1秒、リアルな速度に視聴して記録していく必要がある。
なぜなら早送りした時の情報量に人は耐えられないと AI は知っているから。
50年の人生だったとして1人が担当するならば50年以上かかる。
だから分割、分担する。
1日4時間分ずつ、とある人物の人生の一日を切り取ったものを体験し
残りの4時間でインデックスをつけていく。
豪華客船の旅の中で誰と出会い、何を食べたとか。
最終的に AI が映像を結びやすいようにする。
それをひとつの工場の中で何百人、何千人という単位で毎日行っている。
この作業だって誰でもできるわけではなく、やはり知的エリート予備軍でなければできない。


主人公はそのひとり。
今日もまた見知らぬ誰かの人生を垣間見た。
ランダムに割り当てられるため昨日の続きから、とはならない。
昨日とは別の人物が割り当てられることも多い。
それがもう何年も続いている。


帰ってきて合成食料を食べ、テレビの娯楽番組を見る。
(国営放送のみでチャンネルは娯楽、教育、歴史番組しかない)
冒頭にも書いたようにもやは個人はインターネットや携帯を利用できない。
貧しさの名のもと、その自由がない。
空想好きで歴史の IF を考えることが好きだが、口にすると生命が危うくなる。
だからいつも一人きりだ。
主人公は詩人になりたいと思う。言葉だけが唯一自分の自由にできるものだから。
そして歌を歌いたいとも思う。


AI から逃れた地下組織。
最果ての最下層は AI のネットワークから嫌われている。
AI を倒したところでもはや人類には自らの力だけで文明を発展させることはできない。
そんな中で「人間らしい生活」とは何なのか。畑を耕すことなのか。


AI は遂に未来を作り出すことを始める。
その未来に沿って行動することを求められる。
というかもはや、たいした未来が広がっていない。