劇団「馬」

家の近くにあった杉並区の出張所が廃止になり、その後集会所として使われるようになった。
先週から毎晩、恐らくどこかの劇団なんだろうけど、練習をしている。
劇団の練習自体はそれほど珍しいものではなく、時々見かけることがある。
何が今回気になるかと言えば、馬。
馬の被り物だったり、プラカードのように馬の頭だけのものがあったり、
大人2人が後ろ足・前足となる本格的なのがあったり。
様々なスタイルの馬が壁際で休んでいたり、演出家の指導を受けている。
微妙にシュールな光景。
僕の中で勝手に劇団「馬」と命名され、「オー今日も馬やってるよ」と会社帰りに思う。
僕が帰ってくる時間なので夜も10時を過ぎている。熱心なものだ。


何の話なんだろうな。どういう人たちがやってるんだろうな。
家の近くで公園をするのならこっそり見てみたいな。なんて思う。
やってる人たちは僕のような20代後半〜30代前半が多そうだった。
もっと若い世代の子たちもいる。
集会所を連続して押さえて稽古しているのだから、
独立した劇団というよりは区が主催する夜間の演劇講座の発表なのかもしれない。
そういうのがあるのかどうかは知らんのだけど。


もし本当に社会人が仕事の後に集まってやっているのなら、
僕も暇があったら参加してみたい。
役者はできないからなんらかの裏方で。
日曜の昼にコンビニに行ったらどうもその人たちが休憩時間を過ごしに来たところだったようで、
ジャージ姿の女の子たちとすれ違った。
これまで何回か書いたことなんだけど
学生時代に早稲田大学の演劇サークルの手伝いをしたことがあって、
そのことを思い出して懐かしい気持ちになった。


あの時も練習場所を探すのに苦労して、
あちこちの区や市の集会所に電話をかけて空きがあるかどうか聞きまくったんだよなあ。
普段は早稲田の学生棟って言うのかな、1号館とか呼ばれてたところで練習をするんだけど、
10階かそこらある建物の大半が大小様々な劇団で部屋の予定がびっしりと埋まっていて、
僕がそのとき参加した新参者の劇団だと日によってはその隙間に入り込むことができなかった。
1号館のどこかが取れて公演の練習をしていた時、
今をときめく演劇集団「カムカムミニキーナ」が隣り合わせの部屋になってたことが何度かあった。
今から10年前。まだそんな売れる前の頃だ。


それにしても、ビルの中がまるごと劇団の稽古場になっていて
あちこちの劇団と交流できて、って場所にどっぷりと浸かっていたら
そりゃ人生も狂うよなあと思う。
年がら年中そこにいて世界がその中で閉じられるようになる。
やってるのも演劇という非日常的なものに入り込もうとする性質のあるものだったりすると、もう、ねえ?


僕が参加した劇団は旗揚げ公演の後、自然消滅。
いろいろゴタゴタしたことがあって。
あの頃はこういう生まれては消える劇団が星の数ほどあって、
今でもそれは変わらないんだろうな。


映画はこれまで何本も撮ってきたものの演技のできない僕からすれば
役者ができるってのはある種の憧れだったりする。


あの頃一緒に演劇をやってた人たちは今どこでどうしているだろう。
今でも演劇をやっている人はいるだろうか。