SF的アイデア2

例えば、こういう設定。


過去というものが頭の中の記憶という曖昧な形ではなく、
物理的な再体験が可能なくらいにはっきりとしたものであるとする。
そういうのを「思い出す」くらいであるから
瞬時に、なんてことはない。
かなりのエネルギーを要する行為となる。
身をもって全て辿り直していくような手間暇かかる行為。
ちょっとした過去ならば
そのときそのときで紙や映像に残された記録を参照するものとする。


そして、
1秒前のことを思い出すのに1秒かかり、
1日前のことを思い出すのに1日かかるものとする。
(これがベッドに横たわってイメージの中でそれを行うのか、
それとも実際に体験しながらであるのか、は要検討。
それを行っている間肉体的に年を取るのかってのも要検討)
そんでもって小説的ご都合主義として、
「現在」に戻るのは瞬時でできるものとする。


小説に起こすならば
この流れ行く過去の描写で完成度・迫真性が決まるんだろうな。
単純な逆転再生を延々と連ねていくか、
それよりももっととんでもない「解決」の仕方があるか。


まあ要するにこれぞ一種の限定的なタイムトラベル。1方向のみの。


主人公はとある事件に巻き込まれ、自分の過去を辿り直す。
問題となる時点での出来事を再体験しようとする。
2年前の出来事なのでそこまでたどり着くのに2年間必要とする。
トラベル開始前に読んだ細部の欠けたあやふやなレポートを読む限り
これこれこういう過去が待っているはずなのであるが、
行ってみた先は全然違っていた。
細部が違うどころじゃなくて、何もかもがまるっきりおかしい。
困惑した「2年前の過去に身を置いている」主人公のところに
それまでどこの時点でも会ったことのない男性(もしくは女性)が現れ、
なぞめいた状況をほのめかす。
さらなるトラブルへと巻き込まれる。
どうやらそこから先の過去にはとんでもない秘密が隠されているらしい。


一例:

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俺は物陰に隠れると肩で息をしながらこめかみを押さえた。
撃たれた右腕がズキズキと痛む。
あの女、いったい何者なんだ?
なんで俺の過去に干渉しようとするんだ?
これ以上ここにいては危険だと判断した俺はいったん現代に戻ることにした。


(暗闇の描写)


目を開けると例のドクターが俺の顔を覗き込んでいた。
起き上がろうとする俺を白髪頭のドクターが手で制した。そして言った。
「蘇生措置を受けてから、あんたずっとうなされてたよ。
 向こうでなんかあったのかい?」

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非常にP・K・ディック的。
でもこれで1本短編が書けそうだ。


コツは、この理論の説明をまともにやろうとしないで
ディックのように「さもこれが当然である」世の中に
実際に自分が身を置いているかのような心情になって書くこと。
(ディックならば過去に戻るために利用されるガジェットは
ものすごくチープなものになるだろう)

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あるいは。
自分が生まれた瞬間、さらにその先の「無」へと回帰していくのが流行となった社会。
なんらかのブームか、宗教的行為。


無へと至るその瞬間に垣間見える至福的境地。
(つまり、本来の時間の流れならば生命が誕生する瞬間となる)
死の疑似体験。


さらに。
寿命が無限に近いところまで引き伸ばされた未来社会。
人々はこれといってすることもなく、何度も何度も生命の誕生まで行ったり来たりする。


そしてさらに。
時間的収縮と拡散を繰り返す生き物。
ある種の不老不死。


※ある一点に到達した際、
時間が「反転」を始めるというアイデアそのものはSFの中によく見受けられる。