Electric Pink Machine

給湯室。
女性Aがコーヒーメーカーにお湯を注いでいる。
そこへもう1人の女性Bが「おつかれさーん」と言いながら入ってくる。
AはBに「おつかれさーん」と返す。
Bが照明のスイッチを押す。「暗くない?」
「そう?字を読むわけじゃないからね。コーヒー?いいタイミングで来たね」
「実はね、(A)が立ち上がったのが見えて、コーヒー入れるんじゃないかって思った」
AとB、ハハハと軽く笑う。


流しにもたれたAが戸棚の脇に立ったBに対して言う。2人の手には湯気の立つマグカップ
「聞いて聞いて。昨日届いたの。例のアレが」
「アレって?あ、この前言ってた(EPM)のこと?ほんと?使ってみた?どうだった?」
「・・・すごくよかった」
「えーいいなあ。私も新しいの買おーかなー。買ったのってフルサイズのやつだっけ?」
Aは少しばかり恥ずかしそうにして、うなずく。
「ヘッドセット付きのやつ?」
「うん。新しい型のだからものすごく軽かった。つけてて気にならない」
「いいなあ。いいなあ。・・・もう私そればっかり」B、笑う。
Aもつられて笑う。Aはマグカップを口元に持っていく。


Bが言う。
「私部屋が狭いからさあ、大きいやつ置けないのね。ここ2・3年は携帯用のしか使ってない」
「携帯用って実は私使ったことない。手首に巻くやつ?」
「うん、手首」
Aは小声で囁くように、
「どうなのかな、携帯用って言ったらやっぱりフルのより弱いような気がするんだけど?」
「そう?私はこれで慣れちゃってるから、あれで十分。結局さー、使うゼリーによるんじゃないの?」
「あー。私もそう思う」
「ゼリー、何色のがついてきたの?」Bはマグカップをその辺に置いて、腕を組む。
「赤と青と白のセット」
「ピンクとシルバーは?なし?」
「シルバーはオプション。シルバーって高いじゃない?」
B、うなずく。「高いよねー。私前に買ったのはボーナスが出たとき」
「でも、いいのよねー。うっとりする」
「うん、あれが一番、くる」
AとBは顔を見合わせてフフッと笑いあう。
A、マグカップからコーヒーを一口飲んで、「私、ピンクだめでさー」
「珍しいね。私ずっとピンク派。普段何使ってんの?」
「平日は赤で、土日ゆっくりできるときは白。時々、青。落ち込んでるとき。
 ピンクも10代のときはそればっかりだったんだけど」
B、小声で、「ブラックってすごいらしいよ?試したことある?」
「私はない。ある?」
「こっそりフランスから持ち帰ったのを友達がもらったことがあって
 使ったみたいなんだけど、もうすごかったみたいよ」
「すごい」A、笑う。
「もう、時間が経つのを忘れてしまったって。気が付いたら夜になってたって」
「さすが、王室御用達」
「減量が限られてるし、レシピも一般に公開されてないって言うよね」


そこに男性Cがふらっと現れ、冷蔵庫を空けて缶ジュースを取り出す。
「何の話?」
Bは言う。「さーねー」そして続けて、「さっさと仕事戻んなさいよー」
Aは言う。「大事な、話」
B「そうそう、大切な話」
Cはふてくされたように「なんだよ」と言い捨てて給湯室から出て行く。


しばらく2人は黙っている。Bが口を開く。Aに顔を向けずに、壁を見ながら、
「ね、男性用のってどうなのかな?」
「試してみたい?」
「どうかなあ。でもさ、男性が女性のを使ってたらキモイよねー」
「キモイキモイ」A、笑いながら、「サイテー」
Bも笑いながら、「あと、子供用のをいまだに使い続けてるやつ」
「サイテー!」
「サイテー!」
「ここだけの話、Dさんってそーらしいよ」
「えー!ほんとそれ!?」
「ほんとほんと!!」
2人の笑い声が大きくなる。


「はー。私もフルサイズの買おうかな」
「私の貸してあげられればいいんだけどね。きっとサイズ合わないよね」
「私も(A)ぐらい背があればねー。お金もないし」
「結婚してダンナに買ってもらう」
「結婚してからも使うの?」
「でも最近多いらしいよ。だからさ、2通りあって。
 何もなくなってしまったから1人きりで使うか、
 2人一緒に部屋にいて、それぞれの(EPM)を同時に使う」
「私だったら、どっちもやだな」
「そう?ダンナにゼリーを塗ってもらうってのは?」
「それ、ビミョー」


2人、コーヒーを飲み終えて仕事に戻っていく。
何事もなかったかのようにいつも通り仕事を続ける。


Bの鞄の中には携帯用の(EPM)が入っている。
いつでも、どこでも使えるように。


Aのマンションの部屋の中にはフルサイズの(EPM)が置かれている。
コードが伸ばされ、コンセントに差し込まれている。
近くの机の上には種類のジェリー。赤・青・白。
赤の入った容器の蓋が開いている。
赤のゼリーの匂いが、部屋の中に漂っている。